アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

エマーソン、レイク&パーマー

2007-08-03 19:37:49 | 音楽
『エマーソン、レイク&パーマー』 エマーソン・レイク&パーマー   ☆☆☆☆

 エマーソン・レイク&パーマー、略してEL&Pのデビュー作。EL&Pは私はそれほど好きではないが、『展覧会の絵』『恐怖の頭脳改革』とこの『エマーソン、レイク&パーマー』は時々引っ張り出して聴く。一般的には『恐怖の頭脳改革』が最高作といわれているようだが、私はこの一枚目の方が好きである。

 EL&Pを今ひとつうさんくさく思ってしまうのは、例えばキング・クリムゾンやピンク・フロイドのような精神性をまったく感じないということが一つある。つまり70年代クリムゾンの諸作やフロイドを聴くと、音の背後に広がっている別世界の存在をありありと感じることができるが、EL&Pには全然そういうことがない。そこで鳴っている音がすべてという感じがする。イエスも精神性というより演奏のスリルで聴かせるバンドだが、EL&Pよりも創造性を感じさせる。極端な話EL&Pの曲を聴くと「創造」というより「曲芸」という気さえしてしまう。曲芸が言いすぎならスペクタクルと言いかえてもいい。

 まあこれは、EL&Pのライヴ・ビデオなどを観るとキーボードを弾いているキース・エマーソンが宙返りしていたりアホなことやってるのでそういう印象が植え付けられたのかも知れない。オルガンにナイフを突き刺すのが売り物だったり。クラシックの曲をそのままロック演奏でやってしまうという安直さもそれに拍車をかける。私の中でEL&PはどうしてもB級バンドだ。

 しかしスペクタクルとして優秀であることは認める。EL&Pはキーボード、ドラム、ベースのトリオ編成だが、キース・エマーソンの攻撃的なハモンド・オルガンの音はかっこいいし、クラシックやジャズまでぶちこんだような奔放なピアノはえらく気持ちいい。グレッグ・レイクの声も好きだ。キング・クリムゾンの伝説的デビュー作を彩る荘厳な声は彼である。カール・パーマーはやたら手数だけは多くてリズム感が悪いが、まあスペクタクル・バンドの一員としてはこれでいいのかも知れない。

 このファーストは彼らのアイデアのショーケースのような作品が並んでいて、確かに作品のまとまりという点では『恐怖の頭脳改革』の方が優れていると思う。アレンジも演奏もより複雑だ。でも、私はやっぱりあんまり面白くない。なんかキッチリつくりましたみたいな几帳面な感じがする。このファーストではスリーピース編成がメンバー自身にもまだ目新しくて、これもやってみよう、あれもやってみようと楽しんでる感じがして好感が持てる。
 『未開人』ではファズ・ベースとオルガンの攻撃的な音がフィーチャーされ、『石をとれ』はピアノとヴォーカルがメランコリックな叙情性を醸し出す。『運命の三人の女神』はパイプオルガン・ソロ、ピアノ・ソロ、そしてリズムセクション+ピアノの攻撃的な演奏、と三色のバリエーションが繰り広げられ、『ラッキー・マン』ではポップなヴォーカル曲が披露される。それぞれの曲の性格がはっきりしているのもこのファーストの特徴だ。それからピアノだけ、アコースティック・ギターだけ、ドラムだけなんていうソロ・パートが頻繁に顔を出すのも特徴。スリーピースという少ないメンツで、それぞれの楽器を最大限に生かそうとしているのが分かる。そのせいで曲の構成が破れかぶれ気味に奔放で、演奏の風通しが良い。『石をとれ』のようなメランコリックな曲があるのもその印象を強めている。とにかくEL&Pの演奏といえば「けたたましい」という形容詞がつきもので、『タルカス』や『恐怖の頭脳改革』ではべったり空間を音で埋めつくし息苦しさを感じることがあるが、本作ではあまりそうした空間恐怖症的なところは感じられない。ちゃんと空間が生かされている。好みの問題かも知れないが、私はこれぐらい隙間があった方が好きだ。

 こと演奏にかけては達者な人たちなので、どの曲でも痛快な演奏を聴かせてくれる。私はエマーソンのピアノが好きなので『石をとれ』と『運命の三人の女神』がフェイバリットだが、『未開人』なんかでもオルガンの合間にピアノを弾いてくれてうれしい。全部聴いたわけじゃないのでえらそうなことは言えないが、このファーストぐらいエマーソンがピアノを弾きまくっているアルバムは少ないんじゃないだろうか。とにかく『石をとれ』のピアノは気持ちいい。時々ちょろっと入る不協和音がかっこいいし、レイクのメランコリックな歌唱が合ってる。『運命の三人の女神』も流麗なソロピアノと、リズムセクションの上でやりたい放題に弾きまくるアグレッシヴなピアノの両方がたっぷり堪能できて満足。

 そんなわけなので、『タルカス』とか聴いて「なんかうるせえだけで情緒がねえなあ」と思った人はこれを聴いてみると結構いけるかも知れない。




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