最初のフェミニズム運動がフランスで起こったことは、あまり知られていない。
それは１８３０年前後のことであった。当時、アンリ・ド・サン＝シモン（Claude-Henri de Rouvroy, comte de Saint-Simon）は、産業を発展させ、個人や社会を豊かにし福祉を向上させることにより、人々の幸福を実現するとする社会主義的な哲学宗教思想を提唱していたが、このサン＝シモン主義に賛同するサン＝シモン主義者と呼ばれる男女が、パリ郊外のメニルモンタンで半自給自足の共同生活を営んでいた。そこでは、男が料理、洗濯、アイロン掛けや裁縫をし、女が大工仕事をおこなった。女はパンタロンを、男は膝上スカートのようなものとタイツを身につける独自の服飾ファッションも開発されていた。サンドが当時住んでいたパリのアパルトマンの上階でサン＝シモン主義者の集会がおこなわれたこともあり、サンドをサン＝シモン教団の教母にする案も彼らの間で熱心に議論されたようであった。
サンシモン主義者であり「イヴとアダムは対等だ」と述べ、人が舌を巻くほどの博識家であったピエール・ルルー。大多数の民衆のためにと分かりやすい言葉で書かれた『新百科全書』を出版したルルーのフェミニズム思想やその哲学宗教思想にサンドが傾倒していったのは、当然のなりゆきだったといえよう。サンドが長年にわたり子だくさんのルルーに経済的援助を続けた事実もまた、女性作家と哲学者との間の相互関係の緊密さを物語っている。
サンドの最高傑作ともいわれる『コンスエロ』とその続編『ルードルシュタッド伯爵夫人』には、彼の思想が色濃く反映されている。ピエール・ルルーとサンドの友情は３０年余に及び、その書簡は現在も残されている。
このように強い影響関係が認められるサンドとルルーは恋愛関係にあったのではないかという疑念を抱く研究者もいる。この点について、ピエール・ルルーの専門家で最近はロマン主義や現代文学に関する批評でも知られる、エクサン・プロヴァンス大学教授のブリュノ・ヴィヤール氏にお伺いしたところ、ルルーはサンドに恋していたが、サンドの側はその求愛に応じなかったとのことである。
参考文献
・アンリ・ド・サン＝シモン
-『産業論』：L'industrie, au bureau de l'administration, Paris 1817.
-『産業者の教理問答』：Catéchisme des Industriels, impr. de Sétier Paris 1823-24.
・ピエール・ルル−
Pierre Leroux avec Jean Reynaud, 『新百科全書』L'Encyclopédie nouvelle
『平等について』De l'égalité (1838),
『 折衷主義への反論』Réfutation de l'éclectisme (1839)
『人間性について』De l'Humanité (1840)
・新實五穂（著）
『社会表象としての服飾―近代フランスにおける異性装の研究―』東信堂 2010年
・ジャック・ヴィヤール
−Pierre Leroux et les socialistes européens. Le Paradou: Actes Sud, 1982.
・ブリュノ・ヴィヤール
- Anthologie de Pierre Leroux, juillet 2007, 471 pages, Editions Le Bord de l'eau,2007
- A la source perdue du socialisme, Desclée De Brouwer - septembre 1997
- Pierre Leroux, penseur de l'humanité,Éditions Sullive,mars 2009
- Littérature et déchirure de Montaigne à Houellebecq, Classiques Garnier - janvier 2013
- Lire les romantiques français, PUF, 2009.
- Les 100 mots du Romantisme, PUF, 2010.
−『100語でわかるロマン主義』 (文庫クセジュ) 新書, 小倉 孝誠 (翻訳), 辻川 慶子 (翻訳),
2012/8/17
−Evans, David Owen. Le Socialisme romantique: Pierre Leroux et ses contemporains. Paris: Librairie Marcel Rivire, 1948.
−Lacassagne, Jean-Pierre, ed. Histoire d'une amitié (d'après une correspondance inédite 1836-1866): Pierre Leroux et George Sand. Paris: Klincksieck, 1973.
・ピエール・ルルー研究の専門家、Bruno Viard先生のブログ
https://brunoviard.wixsite.com/blog/single-post/2017/10/23/Les-cinq-diff%C3%A9rences-entre-lhomme-et-la-femme
フランス初のフェミニズム運動とジョルジュ・サンド
http://blog.livedoor.jp/porte21-femmes21/
