苦労して漸(ようや)く江戸幕府を倒したところ、あとに出来たのは結局のところ薩長(さっちょう)幕府、もっと突っ込んで言うなら厚顔(あつかま)しいことに長州幕府ではないか、と天下の有志が至るところ腕を撫(ぶ)して憤慨した。明治の政争は薩長打倒という主題をめぐって回転している。 . . . 本文を読む
怠け癖は暴君などの特質である。とは言っても、人間ならば誰しも働かずに労働の産物だけを手に入れたいと願うものだ。この願望はまったくと言っていいほど世界共通のもので、ジェームズ・ミルなどは、「そもそも政治が行われるようになったのは、この願望が社会一般の利益をむだにしてしまうのを防ぐためだった」と主張しているほどだ。 . . . 本文を読む
不安とは、将来、起るかもしれない、あるいは起らないかもしれないできごとがもとで、現在の自分が金縛りになってしまうことである。ただし、不安と将来の計画とを混同しないように注意しなければならない。将来の計画を立てることが、よりよい未来のために役に立つとしたら、それは不安とは言えない。不安と言えるのは、未来のできごとのために現在の自分が金縛りにされてしまっている場合にかぎってである。 . . . 本文を読む
われわれは、ややもすると記憶力を馬鹿にしがちである。記憶力はすこぶる重要なものであり、軽んずるべきではない。と言うのは、記憶力のおかげで驚嘆するようなことが成し遂げられることがあるからである。一つひとつの言葉はともかく、自分の読んだ本の内容や思想をしっかりと把握して脳裏に刻み込む記憶力と、比較検討する判断力を持っている人物が、頭角をあらわさないということはまずありえない。
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「将来の利益のために、現在の満足を犠牲にする」という克己の精神は、学ぼうとしてもそう簡単に身につくわけではない。生活の苦しい人間なら当然、額に汗して得た金を何よりも大切にしそうなものだ。だが実際には、稼いだ金を飲み食いに使い果たしてどうにも身動きがとれなくなり、倹約家のお情けにすがろうとする連中がずいぶん多い。 . . . 本文を読む
おたがいにともすれば、変わることにおそれを持ち、変えることに不安を持つ。これも人間の一面であろうが、しかしそれはすでに何かにとらわれた姿ではあるまいか。一転二転は進歩の姿、さらに日に三転よし、四転よし、そこにこそ生成発展があると観ずるのも一つの見方ではなかろうか。 . . . 本文を読む
本人の運命に対して、本当のまごころから目を覚まさせてやる努力をする人こそ、尊い存在だと言いたい。暗闇の中に目隠しをして飛び込んで暴れている人間を、そのうち明るくなったら目が覚めるだろうというふうに見ていたら、これは無理ですよ。早く窓を開けて明るくしてやって、目隠しを取ってやらねば。 . . . 本文を読む
結果が出れば、楽になれます。いや、楽になれるかどうか、ちょっと保証できかねますが、本当は結果が出れば楽になれるはずです。大学入試に落ちたのであれば、その落ちたということは冷厳たる事実であって、いまさらそれを悔やんでみたところでどうしようもないのです。だから、その事実の上にふんぞり返ればいいのです。そうするよりほかありません。 . . . 本文を読む
仏教用語では、後に学びますが、形のあるものや、目に見える事柄をすべて「色(しき)」といい、目に見えない真理を、原則的に「法(真如(しんにょ)とも)」といいます。たとえば、野球で打者が打った飛球(フライ)が落下する現象や、落ちるボールが色(しき)です。ボールが落下する原理が引力の法です。私たちは球場のスタンドやテレビで、ホームランの打球が外野席に吸いこまれるように落ちるボールは見えますが、引力の法そのものは見えません。法にはまた色彩もないからです。 . . . 本文を読む
早大の文学部の大先輩、児童文学作家の浜田広介(はまだひろすけ)さんの童話も、そして童謡も私は大好きである。私が、ワセダの学生であったころ、私たち同行者のグループで創設した「早大童話会」に浜田先生を一、二度お招きしてお話を伺ったことが、まだ昨日今日のように思い出されて懐かしくてならない。 . . . 本文を読む
仕事を単に金儲けの手段ぐらいにしか考えていない人間には、こんな火中の栗を拾う冒険はやれるわけがない。また、そんな人間がのり込んだところで再建できるわけのものではない。岩切にとっては「仕事をするということは『生きる』ことと同義語なんだ。悔いなく生きた、という満足感をもって人生を終わるためには、悔いのない仕事をしてゆくしか道はない」ということである。 . . . 本文を読む
これまで世界で成功した人は、非常な変わり者の人間だったといえます。大美術家は形や絵の具において、また濃淡についてむつかし屋です。大技術者もきっとむつかし屋で、その材料にも、デザインにも、正確さにおいても厳密でしょう。大著述家も文体や文句、雰囲気について、人物の描写について必ずむつかし屋です。美人はその髪と衣装に、有名な料理人は肉や野菜の素材について必ずむつかし屋であるに違いありません。商店のお客である家庭の奥様方もむつかし屋です。 . . . 本文を読む
人間にとって世の中で最もたやすいことは自らを騙すこと ( ベンジャミン・フランクリン ) It's the easiest Thing in the World for a Man to deceive himself. ( Benjamin Franklin ) . . . 本文を読む