歌誌『塔』八月号より。
てのひらをぢつと見つめて感慨もないので夕飯までに帰らう/千名民時
石川啄木の有名な一首〈はたらけど/はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る〉を踏まえた作品ながら、〈感慨もないので夕飯までに帰らう〉という展開はまさしく千名ワールド。この捻り具合が読み手には堪らなく魅力的。
草庭にひつそりと立つ一本の耳の良い木を誰も知らない/谷口純子
河野裕子先生の有名な一首〈捨てばちになりてしまへず 眸のしづかな耳のよい木がわが庭にあり〉を踏まえた一首。塔誌の校正をしてくださる皆様が永田先生のお宅に集まられたときのエピソードかもしれない。作中主体は、庭にひっそりと立っているあの木がそうだ、と知っているも、話題を振ってみたら誰も知らないことに愕然としてしまったということかもしれない。河野裕子先生がご逝去されてから十四年の歳月が経ったことを、作中主体はあらためてひっそりと寂しい思いとともに噛み締めているのかもしれない。
てのひらをぢつと見つめて感慨もないので夕飯までに帰らう/千名民時
石川啄木の有名な一首〈はたらけど/はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る〉を踏まえた作品ながら、〈感慨もないので夕飯までに帰らう〉という展開はまさしく千名ワールド。この捻り具合が読み手には堪らなく魅力的。
草庭にひつそりと立つ一本の耳の良い木を誰も知らない/谷口純子
河野裕子先生の有名な一首〈捨てばちになりてしまへず 眸のしづかな耳のよい木がわが庭にあり〉を踏まえた一首。塔誌の校正をしてくださる皆様が永田先生のお宅に集まられたときのエピソードかもしれない。作中主体は、庭にひっそりと立っているあの木がそうだ、と知っているも、話題を振ってみたら誰も知らないことに愕然としてしまったということかもしれない。河野裕子先生がご逝去されてから十四年の歳月が経ったことを、作中主体はあらためてひっそりと寂しい思いとともに噛み締めているのかもしれない。