しごとから帰って来て、部屋の灯りをつけ、風呂に入る気力も湧かないまま床にぐったり座り込んでラジオに手を伸ばす。イヤホンを耳に挿し込み予約録音したラジオ番組を耳からみぬちに流し込む。だが、疲れきった頭ではラジオ番組の内容を理解することがさっぱりできなくて、いつしか意識は勝手に遠退き、はっと覚醒すれば、二時間あまり寝込んでいた様子。頬についた涎を手で拭いながらあわてて風呂の支度をする。風呂では季節に関係なくいつもおしまいに冷水を桶で数杯頭からざんぶりとかぶることにしている。かぶるときは〈大器晩成〉〈大願成就〉の二語を心のなかで幾度も呪文のように呟く。昔から不思議と出世欲は薄い性質(たち)なのだが、一生の間に成し遂げたいことが明確に二つほどあって、ひとつはシンフォニーを書くことで、もうひとつが凡百でない唯一の歌集を編むこと。シンフォニーについては、子どもの時分に音楽の神様と会った折りに約束をした。音楽の神様は女神さまで、この神様は、ひたすらな純粋な童心を持ったひとのみを好み、応援してくれる不思議な神様だ。
とにかく、今日は疲れた。明日のしごともなかなか忙しそうだから、早く寝ることにする。
とにかく、今日は疲れた。明日のしごともなかなか忙しそうだから、早く寝ることにする。