短歌メモから。
大きなる犬が飼ひ主引つ張つてケーキ屋の前過ぎてゆく夕べ
飼ひ主の眼はケースの中のエクレアのうへ 顔はケーキ屋へ向けたまま行く
この人に食べさせてはならぬと思つとります。はい、ワン、ワン、ワン
飼ひ主がよたよた過ぎたるその後(のち)のしばらくして道に薄暮は来たり
雪の畑(はた)に地蔵はローマ帽被りてをり暴君ネロも愛用せしとふ
ケーキ屋の裏の林で鴉鳴くを合図として辺りは闇に包まる
ローマ帽の地蔵はケーキ屋の灯り見てをり 自転車の巡査ぎこぎこ過ぎて
駅ホームに最終列車やつて来て足早に改札出てゆくスーツのひとり
駅前通りの暗闇のなかをスーツは目指す ケーキ屋の明るき誕生日(バースデー)ケーキ
「有難うございました」スーツを見送るケーキ屋の灯りしづかに絞られてゆく