歌誌『塔』八月号より。
ほんとうにしずかなものは黙らない樹と垂直にひとは眠りぬ/大森静香
寺山修司の『事物のフォークロア』という詩の一節〈一本の樹にも流れている血がある/樹の中では血は立ったまま眠っている〉を思い出した。この一首は、キャンプか山行で出かけた作中主体が樹の下にテントを立てて、その中に寝袋を置いて寝ていて、風の葉擦れや樹の唸り声を聞いたのかもしれない。面白い作品と思った。
死のあとはしばらく花が飾られたデスクマットを細く巻きとる/荻原伸
学校や職場でひとが亡くなると、そのひとの座っていた席にしばらく花が飾られる。作中主体は、一定期間を経て花がだめになってきたりして花瓶撤去となったその席を、きれいに掃除して清拭しているのかもしれない。〈デスクマットを細く巻きとる〉という客観的な作業事実が語られることで、作中主体の個別の思いとは別に、そのひとの〈死〉を乗り越えて再び進んでいかなければならないというその組織の方針、事情が垣間見える。
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