カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

梶原さん、岡部さんの一首。

2024-08-30 23:59:42 | Weblog
歌誌『塔』八月号より。

ガードレール跳び越えてゆく遁走の馬にひととき村はかがやく/梶原さい子

普段の村は、作中主体からすると、退屈な時間が流れて静まり返ってひっそりとしていたのかもしれない。そこへ唐突に馬が遁走する事件発生。途端に止まっていた村の時間が一気に動き出し、もろもろの景物が俄然輝きを放ち始めた。自転車の駐在さんとか、村の青年団とか、さまざまな人達の物語が想像されて面白い。また、結句〈村はかがやく〉の語り口からは何となく、前登志夫の有名な一首〈夕闇にまぎれて村に近づけば盗賊のごとくわれは華やぐ〉の結句〈われは華やぐ〉を思い出した。村の佇まいの描出が巧い。

運命の楽音のなかそのひとはこなた窺う猛禽の眼に/岡部史

作曲家である作中主体の胸奥に、運命の楽音が降りて来ている場面を想像した。運命の楽音にまつわる作品を書き残した作曲家には、非常に有名なところではベートーヴェン、チャイコフスキー、マーラー、ショスタコーヴィチなどがいる。〈こなた〉には未知未聴の楽曲の全貌があって、その全貌を聴き取り書き留めるために、作曲家は体を絶妙に脱力リラックスしつつ、一方で全神経を研ぎ澄まして胸奥に耳を傾け続ける。結句〈猛禽の眼に〉がよく利いている。オーケストラの映像が具体的に見えているわけではないが、すべての楽器のパートの旋律の姿がくっきりはっきり聴き分けられ知覚されている。そんな場面かもしれない。
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