あくまでも妄想。〈泰〉のつく加賀前田家第13代当主で第12代加賀藩主の前田斉泰がもしかしたら松濤権之丞泰明の本当の実父だったのではないだろうかと、今日の昼間、唐突に気づいた。これまでの家伝から権之丞実父とされる加賀藩家老山崎範古は、かつて斉泰世子の慶寧の傅(ふ)を務めたこともあったように藩主斉泰からの信頼のまことに厚い人物だった。だからこそ、藩主斉泰から妾腹の子どもを託されて、いろいろ考えた末に、その子が不本意な権力争いに巻き込まれる不幸を避けるために、〈権之丞泰明〉の名を付けて寺に預けたのではないだろうかと思い付いたのだ。範古も権丞家の庶子の生まれだから、庶子の幸せや不幸せをよくわかっていたはず。それにしても、範古自身、〈庶子だから〉という理由で幼い頃寺へ預けられた経験があったのだろうか。これまでずっと〈権之丞泰明は、庶子だから寺へ預けられた〉という家伝を思い返すたたび、〈なぜ、藩の家臣の範古の子どものなかで権之丞泰明だけが寺へ預けられたのか〉といつも引っ掛かっていたが、斉泰を実父と考えたら合点がいくような気がしてきた。ちなみに、権之丞泰明は、後に生まれてきた実子にも〈泰〉の字を継がせ、泰近と名付けている。