ジェフリー・アーチャー『運命の息子』試訳。
その日、スーザン・イリングワースはつかつかとマイケル・カートライトの近くまで来ると手に持っていたアイスクリームを彼の頭にぎゅっと押し付けた。それが、私たちみんなの知っているふたりの馴れ初めでした。――このアイスクリーム事件から21年後、スーザンとマイケルの結婚式で、マイケルの介添人はこう証言した。
事件発生当時、当事者たちはどちらも三歳だった。頭にアイスクリームを付けたマイケルは火が着いたように泣き出し、何事かと様子を見に来たスーザンの母親が直ちに事態を飲み込んで娘を取り押さえるまでものの十秒とはかからなかった。母親の腕の中でスーザンは「だって、だって、あの子が悪いんだもの」と繰り返し訴えた。だが、母親は黙って娘のお尻を叩いた。お尻をぶたれてスーザンも泣き出した。辺りにマイケルとスーザンの泣き声が重なりあって響き渡ったのだ。どう考えても、この場面が発展して後のロマンスにつながろうとは、誰にも予想できないことであった。