あなたは日頃どんな短歌作品に心惹かれますか、と駅頭で唐突に訊かれたとする。そうした場合、反射的な答えとして、〈知のたくらみの鮮やかな結実〉としての作為的な短歌作品に、ですかね、と答えるような気がする。作者の内実に蓄積された膨大博識な知に基づく誇大や矮小や逆転などの作為的な知的操作、すなわち〈捻り〉の鮮やかに決まった作品が好きである。好みというのは、蓼食う虫も好き好きで、千差万別多種多様。シンプルで平板な生活詠や境涯詠が好きなひともいれば、そういうものを甚だ退屈と捉えるひともいる。私は後者かもしれない。生来、性格がひねくれているのかもしれない。作品のなかにいつも〈捻り〉を探し求めてしまう。
しごとのあと。池袋のジュンク堂書店に立ち寄り、小池光氏の最新歌集である第9歌集『思川の岸辺』(角川書店)を購入。河野裕子先生はよく「読みたい歌集は〈謹呈〉や〈借用〉を期待せず、自分からお金を出して買うべし」と仰有っていた。小池氏の歌集などの著作は、私にとって、お金を出しても手に入れて読みたいもののひとつ。私の中には、そういう作者のお名前が幾人かある。
本州のかたちをしたる雲うかぶ 四国の雲はそのそばに添ふ 小池光