映画的・絵画的・音楽的

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イントゥ・ザ・ウッズ

2015年04月03日 | 洋画(15年)
イントゥ・ザ・ウッズ』を吉祥寺オデヲンで見てきました。

(1)暇ができたので映画館に行ってみようと思っただけのことで全然期待していなかったのですが、ミュージカル物としたらこんなところなのかな、でもあまり出来の良くない作品ではないかなと思いました。

 本作(注1)は「昔、森に接して小さな村がありました」との語りで始められます。
 そしてまず、シンデレラアナ・ケンドリック)が、国王が催す舞踏会に参加したいと歌いながら、ホコリまみれになって大きな家の掃除を一人でしています。そんなシンデレラを継母やその娘らがあざ笑い、継母は豆を床にぶちまけ、「豆を全部拾い集めたら舞踏会に行ってもいいよ」と言うのです。
 次いで、乳を出さない牛を連れたジャック少年が登場し(注2)、母親から「牛とは友だちになれない」と言われ、さらに牛を隣村の市場で売ってくるように命じられます。
 また、パン屋では、主人(ジェームズ・コーデン)と妻(エミリー・ブラント)が、子供がほしいと歌いながらパンを売っているところに、赤ずきん(リラ・クロフォード)が、「パンを恵んで。森に住むおばあさんに食べさせたいの」と言いながら入ってきます(注3)。

 そんなパン屋に、隣に住む魔女(メリル・ストリープ)がやってきて、「子供が授からないのは呪いのせい。呪いを解くためには、3日の内に、ミルクのように真っ白な牛、血のように赤いずきん、トウモロコシのように黄色い髪の毛、それに金色の舞踏会用の靴を揃えることだ」と言うのです。



 それで、パン屋の夫婦は、その4つのものを探しに森のなかに入って行くことになります。



 もとより、赤ずきんは、おばあさんに会いに森の中に入りますが、シンデレラも、王様の舞踏会に参加するために森を通って城に向かうことになりますし、ジャック少年も、隣村に行くために森を通ることになります。



 この他、魔女は、ラプンツェルマッケンジー・マウジー)を森にある塔の中に閉じ込めて育てています。
 こうして、本作に登場する主要な登場人物が皆森の中に入って行くことになります。
 さあ、森のなかでは一体どのような展開が見られるのでしょうか、………?

 本作は、1987年のブロードウェイ・ミュージカル(注4)を実写化した作品で、シンデレラ、ラプンツェル、赤ずきん、ジャックと豆の木の4つの童話を、森という場所でつなぎあわせ(注5)、その上でそれぞれの童話の「その後」を描き出しています。前半は、よく知られている童話が若干違った語り口で語られ、それはまあそれで問題ないでしょう。ですが、後半になって、肝心の「その後」のお話が描かれると、どれも全くとるに足らない酷くつまらない話になってしまっています。

 それに、出演者の中で評価できるのはメリル・ストリープくらいで、アナ・ケンドリックも期待はずれでした(注6)。

(2)劇場用パンフレットの最初のページで、監督のロブ・マーシャルが「(本作の)テーマは「願いを叶える」というコンセプトです。人々は願いを叶えるためにどこまでしようとするのか、その影響にどう対処するのか」と述べています(注7)。
 この映画は、そんなところに全てを落とし込もうとして作られている感じがします。ただ、物語は予めテーマをはっきりと定めて作るものではないように思われますし、また映画のテーマなどは制作者が事前に声高に言うものではなく、観客がそれぞれ映画を見た後に自分で考えるべきものでしょうし、もとより映画に明確なテーマなどなくとも何の問題もないものと思います。何にせよ、まずは話自体が面白くなくてはどうにもなりません。

 例えば、パン屋の夫婦は子供を授かりたいという“願い(wish)”を強く持っていて、それで森の中に入って魔女が求める4つの物を集めて、ついに子供を授かります。ですが、その代償としてなのでしょうか、妻は崖から落ちて死んでしまいます。
 この話を見て観客は、あまり高望みをするとロクなことにはならないと思え、というのでしょうか?
 でも、パン屋の夫婦はとにかく子供を授かったのですし、妻の死は、彼らが子供を望んだことと全く無関係と思える事故死でしかありません(注8)。
 なんだか、パン屋一家に悪いことが起きるように、無理やり妻を死なせてしまったような至極唐突な印象を受けます(注9)。

 また、魔女によって塔に閉じ込められていたラプンツェルも、自由の身になりたいという“願い”を持っていて、もう一人の王子(ビリー・マグヌッセン)と一緒になり、ついに魔女の支配から逃れます。ですが、他の登場人物が総じて“願い”を叶えるものの問題も引き起こしてしまうのに対し、ラプンツェルはどんな問題を抱え込んだのでしょう?また、いつの間にか画面から消えています(注10)。

 本作は、4つの童話の「その後」のお話が描かれると、例えば、上で見たように、中心的と思える登場人物が画面からスッと消えてしまったりして(注11)、酷くつまらない話になってしまっています。
 テーマとか教訓などを言う前に、話自体をもっと面白いものにしなければ、「その後」をわざわざ描く必要もないのではと思います。

 尤も、本作はミュージカル作品ですから、ストーリーもさることながら、映画の中で歌われる歌の方がずっと重要でしょう。
 その点からすると、最初の方の曲は展開がスピーディでなかなかおもしろいと思いました(注12)。ですが、ストーリーに乗れなかったせいもあるでしょう、総じて印象に残る歌が少なかったように感じました。

(3)渡まち子氏は、「おとぎ話を新解釈し主人公たちのその後を描くミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」。豪華キャストの歌声が圧巻」として65点を付けています。
 前田有一氏は、「ディズニーランドが大好きなメルヘン少女がみたら仰天確実な、ディズニー自らによるディズニー壊し。数々のお姫様物語の幻想を完全崩壊させる、破壊力抜群の実写ミュージカルである」として60点を付けています。



(注1)監督はロブ・マーシャル、脚本はジェームズ・ラパイン(原作ミュージカルと同様)、作詞・作曲はスティーヴン・ソンドハイム(原作ミュージカルと同様)。

(注2)ジャックは、自分の牛(cow)からミルクを搾りたいと願っている少年ですが、パン屋の主人と豆5粒で牛を交換してしまうほどバカな少年という感じで描かれています。

(注3)赤ずきんは、可愛く優しい少女というよりも、むしろ、パン屋の売り物のパンを許可なくどんどん食べてしまうような、ちょっと変わった女の子といった感じで描かれています。

(注4)この記事で、原作ミュージカルの内容がわかるのではと思います。

(注5)本作は4つの話をつなぎあわせていますが、中心となるのは魔女などが登場するラプンツェルの話です。とはいえ、本作では、ラプンツェル自身はあまり活躍しません。

(注6)出演者のうち、最近では、メリル・ストリープは『8月の家族たち』、エミリー・ブラントは『LOOPER/ルーパー』、ジェームズ・コーデンは『はじまりのうた』、アナ・ケンドリックは『ランナウェイ 逃亡者』、狼に扮するジョニー・デップは『トランセンデンス』、シンデレラを見初める王子役のクリス・パインは『アンストッパブル』で、それぞれ見ました。

(注7)脚本のジェームズ・ラパインも、この作品の教訓は「願いごとをする時は気をつけろ」であり、「この物語は、例えそれがどんなに小さな行動だとしても、自分自身の行動によってもたらされる結果の重大さについて語っています」と述べています。
 尤も、劇場用パンフレット掲載の監督インタビューでは、ロブ・マーシャルは、「この作品で描き出そうとしたテーマは何でしょうか?」と訊かれて、「家族というコンセプト」を挙げています。また、作詞・作曲のスティーヴン・ソンドハイムは「私の意見では、この作品は社会的責任を描いたものだと感じています」と答えています。
 作品のテーマについて、制作者側でも様々考えるようであり、見る側であまり窮屈に考える必要性は乏しいと考えられます。

(注8)空から復讐のために降りてきた巨人の妻が引き起こす地震によって、崖から落ちるのだとしても。

(注9)あるいは、森の中を逃げ惑っている時に、パン屋の妻はシンデレラと結婚した王子と出会い、なんと二人はキスを交わしてしまうのですが、貞淑であるべき妻がそんなことをしたことの代償として死んでしまうということも考えられます。でもそれでは、あまりに代償が大きすぎるのではないでしょうか?

(注10)ラプンツェルは王子と姿を隠してしまい、パン屋の主人を中心に新しい家族が形成されるラストのシーンには登場しません。いったいどこへいったのでしょう?
 あるいは、ラプンツェルの長い美しい髪が引きちぎられてしまったことが問題なのでしょうか?
 ちなみに、上記「注4」で触れた記事によれば、原作ミュージカルにおいては、ラプンツェルは、巨人の妻によって踏み潰されて死んでしまうようです。

(注11)残っている登場人物も、せいぜい巨人の妻と戦うくらいのことしかしません。

(注12)例えば、このサイトで、最初の方の曲を聞くことができます。



★★☆☆☆☆



象のロケット:イントゥ・ザ・ウッズ


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5 コメント

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さすがに辛かった (atts1964)
2015-04-06 10:47:08
暗いお話でアンハッピーエンド、これだけでもどう構成していくのかですし、お話4つのコラボですから、もうミュージカルで、押していくしかないと思いました。
確かに中盤から実力発揮のメリル・ストリープでしたが、彼女だけでしたね良かったのは。
もっと歌を前面に押し出して前編歌の完全ミュージカルでしか、表現できない作品だったのでは?
こちらからもTBお願いします。
Unknown (クマネズミ)
2015-04-06 20:37:41
「atts1964」さん、コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、クマネズミも「メリル・ストリープだけが良かった」と思いました。
Unknown (ふじき78)
2015-04-16 00:45:02
> ただ、物語は予めテーマをはっきりと定めて作るものではないように思われますし、

「この映画のテーマは愛です。何物をも包む愛、そう、宇宙愛です」みたいな曖昧な事を言っておけばよかったのに………
Unknown (ふじき78)
2015-04-16 00:50:10
いやあ、迂闊にもちょっと睡魔に負けている間にジョニー・デップの登場シーンが全部、終わってしまいました。
Unknown (クマネズミ)
2015-04-16 06:34:49
「ふじき78」さん、二つのコメントをありがとうございます。
最初のコメントについては、おっしゃるとおりで、監督は、映画制作の経緯などを喋るにしても、映画の中身については「どうぞ映画を愉しんでください」とだけ言えば十分ではないかと思います。
2つ目のコメントについては、にもかかわらず、この映画のPRにおいては、まるで彼がメリル・ストリープの相手役のような感じにされています。

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