映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

R100

2013年10月29日 | 邦画(13年)
 『R100』を渋谷TOEIで見ました。

(1)松本人志監督の前作『さや侍』を見たこともあり、かなり評判が悪そうですが(注1)、映画館に行ってきました。

 本作では、主人公の片山大森南朋)が、クラブ「ボンデージ」に入会したところ、日常生活の思いもよらないところで、いろいろな「女王様」から酷い目に遭うようになります(注2)。しかし、彼はその強い刺激に酔いしれるのです。



 でも、勤務する家具店の中とか、果ては自宅にまで「女王様」がやってくるようになると、片山はとても耐え切れず、プレイの中止をクラブの方に申し入れます。ですが、最初の入会の決まりに「途中退会はできません」とあったことから(注3)、一向にプレイは中止されず、それどころか、………?

 どうしようもない酷い作品といった評価を目にすることもあり(注4)、心して見たのですが、わからない部分はいろいろあるものの(注5)、一応きちんとしたストーリーがあり、言われるほどむちゃくちゃな映画ではないのではないかと思いました(注6)。
 あとは、この映画を撮ることで監督は何を言おうとしているのかということでしょうが、まあ主人公が、ちゃんとしたところに勤めながらも虐められたいという欲求を持っている人物だというところから、経済的には先進国の仲間入りを果たしたものの自虐的な姿勢を拭い去れない戦後日本の姿をかたどっているのではないか、という気がします(注7)。
 全体として、前作の『さや侍』同様、まずまずの出来栄えではないかと思いました。

 主演の大森南朋は、『東京プレイボーイクラブ』で演じた勝利とは正反対の酷く困難な役柄ながら、実に上手くこなしていると思いました。

(2)本作について問題にするとしたら、下記(3)で触れる渡まち子氏が、「すべての不条理を一発で解決する“必殺技”」と言及している事柄(注8)をどう評価するのか、という点ではないかと思われます。
 この点について、一方で渡まち子氏は、「こんな“映画的”な仕掛けを施すようになったのは、監督としての進歩なのかもしれない」と評価しているところ、他方で、下記(3)で触れる相木悟氏は、「決定的にいただけないのが、劇中に仕組まれたメタ的な“ある構造”だ。挿入された当該シーンで訴えたかったこと、やりたかったことは分かる。でもほとんどの観客は、本シーンを監督の自己弁護、いわゆる卑怯な“言い訳”に解釈するであろう」と批判します。
 ただ、この記事によれば、松本監督自身が、「あえて監督の僕が言いますが、これはひきょうな映画でもある。めちゃくちゃにした責任を全部、僕がかぶりたくなかった。逆に言えば、本当にめちゃくちゃにするためには必要な仕掛けだったということです」と述べているのです。
 つまり、監督自身が、そう批判されることを百も承知でこの仕掛を施しているように考えられるのです。
 そうだとすれば、このブログの記事では、「松本人志監督がこの映画でメッセージをしたいのは、「映画にくる観客ってMでしょ?」だと断言する」と述べられていますが、それはそうかもしれないものの、さらに、水道橋博士が言うように、「このバカぶりを一般公開する映画のポジションそのものが世間及びに世界に対してM側(ボケ側=バカ側)であり、ツッコミ待ちを前提としている」とも考えられるのではないでしょうか?
 要すれば、松本監督自身が皆に酷評されてこっぴどく虐められたいのだとも考えられるところです。全国展開で公開したにもかかわらず、観客に入りが酷く悪いというのも、松本監督にとっては、本作で片山が女王様に突然足蹴にされるのと同じことなのかもしれません。
 でも、ひとたびそんなポジションをとってしまったら、松本監督の映画制作自体が否定されてしまうことになり、次回作の制作など考えられないことになってしまいます(既製の映画に「No」を叩きつけたところ、その規制の映画の中に自分自身の映画も入ってしまっている、という構図になりかねないのではないでしょうか)。
 さあ事態は今後どのように展開するのでしょうか?クマネズミとしては、次回作も大いに期待しているのですが。

(3)渡まち子氏は、「謎のSMクラブに入った男が不条理な体験をする異色作「R100」。ワケがわからない物語には、実は大きな仕掛けがある。おかげで過去作品の中で一番“映画らしい”かも」として40点をつけています。
 また、前田有一氏は、「万人向けどころか10人向けにもなっていないが、こういう映画は稀有であり、出てくる土壌まで否定してはなるまい。松本監督には、素人の批判意見に惑わさ れることなく、間違っても対抗心など抱くことなく、してやったりと心で笑ったうえで、ゴーイングマイウェイで次回作に取り掛かってほしい」として60点をつけています。
 さらに、相木悟氏は、「松本氏の根本意識に疑問は覚えるが、作品の発想自体は面白く、ここまで書いておいてなんだが、結果からいうと大いに楽しんだ」などと述べています。




(注1)例えば、この記事とかこの記事
 ただし、後者の「評価」で言及されているトロント映画祭に関しては、当初の「東スポ」の記事に右へ倣えした記事が溢れているところ、このブログ記事が言うように、その「東スポ」記事はたった一つの地元紙の評価だけを取り上げたにすぎず、この記事によれば、現地の評価は実際には様々のようです。
 なお、アメリカの映画情報サイトIndiewire による評価によれば、本作は「A-」とされています(このレビューは、劇場用パンフレットに翻訳が掲載されています)。

(注2)ここらあたりは、これまでの松本作品と類似の構造になっています(ただし、『しんぼる』は未見です)。
 すなわち、本作では、喫茶店で回し蹴りをする女王様(冨永愛)、寿司屋で寿司を叩き潰す女王様(佐藤江梨子)、家具店のトイレで鞭を振るう女王様(寺島しのぶ)、片山の妻(YOU)の病室に現れその声を真似る女王様(大地真央)、片山の自宅に出現して唾液を吐く女王様(渡辺直美)、それに丸呑みの女王様(片桐はいり)という女王様が次々に登場しますが、この構造は、『さや侍』における「若君を笑わせようとして次々に披露される20以上もの芸」に、さらには『大日本人』において「「締ルノ獣」、「跳ルノ獣」、「匂ウノ獣」、「睨ムノ獣」、「童ノ獣」といった怪獣が次々と登場して大佐藤と戦」うことに通じているものと考えられます〔『さや侍』についての拙エントリの(2)を参照〕。



(注3)クラブの支配人(松尾スズキ)が、入会にあたって説明するクラブのルールには、その他に、「日常生活の中で楽しんでもらうことになっている」「契約期間は1年間」などがあります。
 そして、片山は、このクラブのやっていることが不当なことだと警察に行って訴えますが、警察の担当者(松本人志)は、「自分の意思でそこへ行ったんですよね」「骨折などもないんですよね」「お互いに納得の上でということですよね」等と言って、片山の話は聞くものの、まともに取り合ってくれません。



(注4)上記「注1」に記載した記事のほか、例えばこのブログ記事

(注5)例えば、片山に「このままだと家族も巻き込まれて大変なことになるぞ」と忠告しに来た岸谷渡部篤郎)という男の役割がよくわかりません(「反社会勢力を撲滅する者」と自分で言いますが)。
 また、前田有一氏は、「その後の二人の驚愕のオチ、あれはいったいなんだろう。片桐はいり演じる女王様の存在は、あのラストシーンが見た目の(常識的な)意味とは異なるという伏線かもしれない」と述べています。ただ、「片桐はいり演じる女王様」は、片山が大切に思っている妻や義父(前田吟)を飲み込んで片山にダメージを与えるわけですから、他の女王様と類似の行動と思えるのですが、確かに「二人の驚愕のオチ」の解釈は難しいものがあります。
 あるいは、Sとなった片山とSそのもののCEOリンジー・ヘイワード)とが合体して、それこそ正真正銘のSを片山が身ごもったということになるのかもしれません〔クラブの支配人が、「「Mは、それが昂じるとSになる。そのSは、Sにひれ伏して巨大なSとなって身ごもる」(確かな内容ではありません)というような意味合いのことを言っていましたし〕。

(注6)相木悟氏が、「松本氏は、“映画という概念を壊す”心意気で、かつてないものをつくろうとしているのだろうが、これまでの作品も本作も大言のわりには、それほど革命的な代物ではない。むしろ、ありきたりである」と言うように。

(注7)前田有一氏が、「MなオヤジがいじめぬかれてSに変貌する様子は、主人公を「日本」に例えれば近年のネトウヨレイシスト化を茶化しているようにも見える。おそらく松本監督はああいう連中を何より嫌うだろう」云々と述べているように。
 とはいえ、その程度のことを言うのであれば、何もわざわざこうした映画にせずとも、もっと簡便な方法があるのではないかと思われるのですが(それに、すでに「“自虐”史観」などとさんざん論われてしまっていることですし)。

(注8)本作の途中で、この映画の試写を見ているプロデューサーら5人の男女が、映写室を出たり入ったりします。初めのうちは、試写室を出てくると、黙ってお互いに顔を見合わせるばかりですが、最後の方になると、「あのBondageという組織の目的が全然わからない」とか、「知らない人のモノマネができるって何なの?」、「100歳越えないとこの映画を理解できないと監督が言っているそうだが、100歳を越える人がこの世の中に何人いると思っているの?」などと批判を口にするようになります。本作に対し評論家などから投げつけられるであろう批判を先取りしている作りになっています。



★★★☆☆




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