映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

海街diary

2015年06月23日 | 邦画(15年)
 『海街diary』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)本年のカンヌ国際映画祭に出品された作品ということで、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭場面は、ベッドで眠っている若い男と女。
 そこに電話が。
 メッセージを読んだ女(次女の佳乃長澤まさみ)が起き上がって、「呼び出し?」と尋ねる男(坂口健太郎)に、「ごめんね。大した呼び出しじゃないんだけど」と言って、キスをして男の部屋から出ていきます。
 マンションから出ると、前の道路の向こうには海が広がっています。
 その海沿いの道を佳乃が歩いているところで、タイトルクレジット。

 次いで、佳乃は大きな2階建ての木造家屋に玄関から入っていくと、三女の千佳夏帆)が現れ、「お帰り。泊まる時は連絡した方がいいよ」と忠告すると、佳乃は「流れでそういうことがあるんだ、大人には」と答えます。
 そして、長女の綾瀬はるか)が登場し、「遅い。肝心な時にいつもいないんだから」と怒ります。

 次の場面は、3人が食卓を囲んで朝食をとっています。
 幸によれば、3人を捨てて家を出て行った父親が山形で死んだとのこと。
 3人目の妻と暮らしていて、中学生の娘がいるようです。
 佳乃が「妹?」と言い、千佳が「お葬式、どうすんの?」と尋ねると、市民病院で看護師を務める幸は、「自分は夜勤があるから、あんたたち行って」と言います。

 信用金庫勤務の佳乃とスポーツ店勤務の千佳は、仕方なく山形に向かうことに。
 列車の中で、佳乃が「気が重い、15年も会っていないのだから」と言うと、千佳は「お父さんは優しかった、動物園に連れて行ってくれた」と応じたりします。

 列車が目的の駅「河鹿沢温泉駅」に着くと、女の子(四女のすず広瀬すず)が現れ、「遠いところお疲れ様です」と挨拶します。
 この四女が、3人の姉妹が住む鎌倉の家にやってきて暮らし出すことから映画の物語が展開していきますが、さあ、どうなることでしょうか、………?

 本作は、是枝監督の前作『そして父になる』と同じように、普通の家族とされているところに、ポンと異質のものを投げ込んだ時に、人々の関係がどうなるのかが描かれているように思われます。ただ、全体としては何事も穏やかに流れていき、まるで鎌倉という場所がこの四姉妹をそっと包み込んでいるようで(注2)、人というよりむしろ鎌倉の描写に重点が置かれているかのごとくです(注3)。

(2)もう少し申し上げれば、是枝監督の前作の場合は、子供の取り違えというかなりショッキングな出来事が描かれていましたが、本作は腹違いの妹・すずを3人の姉妹が引き取るということで、家族の中に投げ込まれるものの異質さの度合いが、前作よりも随分と低下している感じがします。
 その上、四女が大変明るい性格の持ち主のように描かれていることもあって、迎え入れた3人の姉妹のそれぞれに引き起こされる事件も大したものにはならずに済んでいます。
 そのせいもあって、全体としてやや穏やか過ぎる感じがしないでもありません。でも、インパクトのある厳しい出来事を描く映画が多い中で、こうした作品は素晴らしい清涼剤になるのではないでしょうか?

(3)映画がゆっくりと展開されていくために、とりとめない連想をしてしまいます。例えば、
・本作では四姉妹が描かれることから(注4)、下記(4)で触れる渡まち子氏が指摘するように、過去何度も映画化された谷崎潤一郎の『細雪』が思い浮かびます。ただ、それを原作とする映画はどれも、洪水のシーンがあるなど(注5)、ずっと起伏の激しいストーリーだったように思います。
 とはいえ、例えば、本作では祖母の七回忌が描かれるところ、『細雪』の映画でも法事のシーンを見ることができます(注6)。

・本作のラストシーンのように、海岸にいる4人の女性という点からすると、『ペタルダンス』〔この拙エントリの(3)〕の方でしょうか(注7)。



・四姉妹が暮らす鎌倉の家では、食事はちゃぶ台でします(注8)。



 今どきテーブルを使わない家は珍しいと思いますが、四人姉妹の家が純日本家屋で畳の部屋ばかりですから仕方がないのかもしれません。案の定、佳乃が立膝をついていると、幸から怒られたりします。
 ちゃぶ台での食事風景は、時代設定が昭和の映画にはしばしば登場するところ、最近では 『海を感じる時』で、恵美子(市川由衣)と洋(池松壮亮)の二人がちゃぶ台を挟んで食事をしていました。

・市民病院に勤務する幸は、同じ病院の小児科医(堤真一)と不倫関係にあります(注)。



 はっきりとはしませんが、彼の妻は精神的に問題があって別居しているようです。こうした関係も様々な作品で描かれているところ、最近では『白河夜船』において、主人公の寺子(安藤サクラ)は、妻が交通事故によって植物状態にある岩永(井浦新)と関係を持っています。

 その『白河夜船』のラストでは、寺子と岩永が隅田川で打ち上げられている花火をビルの間から眺めるシーンがあり、本作でも、佳乃が勤務先の信用金庫のビルの屋上から同僚たちと花火を眺めるシーンがあります。

・佳乃は、恋人の学生(本作の冒頭に登場)に振られ、仕事一筋に生きると宣言し、上司の坂下係長加瀬亮)と江ノ電に乗って得意先周りをしています。



 その様子から、なんとなく、『海炭市叙景』で谷村美月と加瀬亮とが函館の市電に乗りあわせている場面を思い出しました(注10)。

・三女の千佳は、「うちのカレーと言ったら、おばあちゃんのちくわカレーなの」と言って、カレーを作ってすずと二人で食べます(注11)。



 カレーが登場する映画は多いでしょうが(注12)、最近作ならば『深夜食堂』の第3話「カレーライス」でしょう。

のトンネルを、四女のすずが、同級生の風太前田旺志郎)が漕ぐ自転車に乗せてもらって通り抜けるシーンが印象的です。すずは、「いっぱい咲いているじゃない!スゴーイ」と叫びます。
 満開の桜ならば数限りなく名作がある中で、最近では『あん』で描かれた桜は素晴らしいものがありました。

・すずは、仙台にいた頃サッカークラブに入っていたというので、千佳の勤務先のスポーツ店の店長(浜田三蔵)の口利きもあって、地元のサッカーチーム「湘南オクトパス」に入ることになります。



 すずが加入したチームの試合の模様が映し出されると、あまり感心しなかった作品ながら、『スマイル、アゲイン』を思い出し、「湘南オクトパス」の監督(鈴木亮平)は、ジェラルド・バトラーが演じるジョージ・ドライヤーに該当するのかな、でもそれでは野性味あふれるジェラルド・バトラーと明るくさわやかな鈴木亮平(今や体格では敗けないでしょうが)とでは対極的だな、などと思ったりしました。

(4)渡まち子氏は、「「そして父になる」の次は“そして家族になる”ストーリー。死や別れの先にある生の愛しさが、残像のように残る秀作だ」として80点をつけています。
 中条省平氏は、「舞台が鎌倉であることから小津安二郎の映画を連想する。父の葬儀の斎場の煙も明らかに『小早川家の秋』を示唆する。家族崩壊の危機は小津の根本的テーマだった。だが、人生の虚無を見つめる小津に比べれば、是枝には子供たちに託す希望の明るさが感じられる」として★4つ(「見逃せない」をつけています。)
 稲垣都々世氏は、「是枝作品は、往々にしてテーマが先行する。明確なコンセプトのもとに構成やせりふを作り込み、感性より理性や論理が前面に出る。しかし、今回はいつものスタイルとはちょっと違う。アピール感を抑え、ゆるさを許し、ふんわりした自然な空気を作り出そうとする」と述べています。
 藤原帰一氏は、「劇に起伏を持たせない一方、画面のつくりは精妙です。庭に咲く草花から季節を伝え、その花々を揺らす風までも感じさせる画面が美しい。そして暮らしが古風なんですね」と述べています。
 小梶勝男氏は、「今が旬の女優たちが演じる4姉妹は、生命力にあふれて実に魅力的だ。だが、光が強ければ影も濃いように、命の輝きが増すほど死や不在も色濃くなる。そのコントラストが、鎌倉の美しい四季の風景とともに、胸を打つ」と述べています。



(注1)本作の監督・脚本は、『そして父になる』や『奇跡』、『空気人形』、『歩いても、歩いても』の是枝裕和。
 原作は、吉田秋生の漫画『海街diary』(小学館)。

(注2)山形の「河鹿沢温泉」で暮らしていた時分、亡くなった父親がすずを連れてよく行った場所は、その眺めが鎌倉の景色と大層似ているとのこと(すずの話によれば、仙台にいた時分にもそのような場所があったとのこと)。
 なお、4月に見たNHK番組「ブラタモリ」では、辰巳用水の水源地の方から金沢市街を見る場面がありましたが、本作で映しだされる、山側から見た鎌倉市街の感じとやや似ているように思えました(扇状地めいた感じが類似しているのでしょうか)。

(注3)出演者の内、最近では、綾瀬はるかは『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』、長澤まさみは『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』、夏帆は『箱入り息子の恋』、加瀬亮は『自由が丘で』、鈴木亮平は『予告犯』、病院の師長役のキムラ緑子は『駆込み女と駆出し男』、三姉妹の大叔母役の樹木希林は『駆込み女と駆出し男』、山猫亭の店主役のリリー・フランキーは『ジャッジ!』、風吹ジュンは『抱きしめたい―真実の物語』、堤真一は『駆込み女と駆出し男』、三姉妹の母親役の大竹しのぶは『悼む人』で、それぞれ見ました。

(注4)四姉妹については、例えば、このサイトが参考になります。

(注5)尤も、1983年版『細雪』(市川崑監督)では洪水のシーンは見られませんが。

(注6)このブログの記事には、1983年版『細雪』の法事のシーンの写真がいくつか掲載されています。
 なお、本作では、最初に、四姉妹の父親の葬儀の場面が描かれ、また後半では、皆がよく行った海猫食堂の店主(風吹ジュン)の葬儀の場面もありますが、葬儀の場面といえば、最近では『娚の一生』でしょうか。

(注7)尤も、本作では4人の絆が強まる明るくポジティブな場面となっていますが、『ペタルダンス』では、冬の海を前にしていたりするので、ずっと陰鬱な感じが漂っています。
 なお、海岸にいる4人が楽しく談笑するということでは、男性版ながら最近見た『予告犯』はどうでしょう。

(注8)原作の漫画においても同様です。
 ただ、いまどき、20代の普通の若者が長い時間正座などできるのでしょうか?

(注9)堤真一は、『孤高のメス』で医師・当麻の役を演じ、その際も、本作同様いともアッサリと赴任先の病院を辞めてしまいます〔その病院の看護師・浪子(夏川結衣)は、当麻に好意を持ちますが、恋愛関係には至りません〕。

(注10)尤も、映画の中で谷村美月と加瀬亮とは何の関係もないため、二人の間に会話はありませんが。

(注11)その際、千佳が、「私、お父さんのこと余り覚えていないの。すずの方が、いっぱい思い出あるでしょ。いつか教えて」とすずに言うと、すずは「釣りが好きだった。週末に一緒に行っていた」と応えるものですから、千佳は、自分も釣りが趣味なので「本当に!」と嬉しがります。
 別の機会ですが、仏壇の上に飾られているおばあさんの写真を見て、すずが「幸さんに似ている」と言うと、千佳が「姉の前で言わない方がいい。そう言われるのが一番嫌みたいだから」と注意します。
 さりげない会話の中で、姉妹たちの縦のつながりが暗示されています。

(注12)例えば、『転々』で小泉今日子が作るカレー。



★★★★☆☆



象のロケット:海街diary



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7 コメント

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紹介 (ino)
2015-06-24 12:38:58
日本語の起源

言霊百神

kototama 100 deities

http
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Unknown (atts1964)
2015-06-25 08:21:11
若い4姉妹の出演ですが、鎌倉という土地のせいもあり、何か懐かしいにおいさえする作品でした。
脇役の配置が見事で、出演している役者さんが皆演技ができ旬な役者さんばかり、今年の邦画の上位の作品でした。
こちらからもTBお願いします。
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Unknown (クマネズミ)
2015-06-25 21:22:30
「atts1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、「鎌倉という土地のせいもあり、何か懐かしいにおいさえする作品」ではないかと思います。
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Unknown (ふじき78)
2015-09-10 21:14:22
> ただ、いまどき、20代の普通の若者が長い時間正座などできるのでしょうか?

畳しかない暮らしをしてるとひょっとして・・・・・・
四女のすずはそういう生活をしてなかったから苦労するかもしれない。すずにとって正座をして正しい居住まいを見せる姉3人は海街に住むノンマルト(真の人間)なのかもしれない。
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Unknown (クマネズミ)
2015-09-11 07:25:11
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
姉3人が「海街に住むノンマルト」だとすると、すずはノンマルトが住む「海街(海底)」に地上からひそかに送り込まれた地球人、あるいはひょっとするとウルトラマンかもしれず、ついにはノンマルトたち(誰が怪獣ガイロスなのでしょう?)はやられてしまうかもしれませんね!
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Unknown (ふじき78)
2015-09-11 07:47:33
ガイロスは普通に考えたら大竹しのぶでしょうなあ。大竹しのぶには悪いけど。
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Unknown (クマネズミ)
2015-09-11 21:00:44
「ふじき78」さん、再度のコメントをありがとうございます。
ガイロスに扮する大竹しのぶは、「ふじき78」さんに言わせれば、イモータンでもあり、この点からも『海街diary』と『マッドマックス怒りのデス・ロード』とはつながってきますね!
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