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君と歩く世界

2013年04月22日 | 洋画(13年)
 『君と歩く世界』を新宿ピカデリーで見ました。

(1)ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』に出演して魅力的だったマリオン・コティヤールの主演映画というので映画館に出かけました。

 舞台は、南フランスのリゾート地・アンティーブ(コート・ダジュールに面しています)。
 そこにあるマリンランドのシャチ調教師・ステファニー(マリオン・コティヤール)は、シャチのショーに出演しているときに、ステージが壊れてしまい水中に投げ出され、シャチに両足を食いちぎられるという事故に遭遇します。
 そんな悲惨な目に遭遇したステファニーは、絶望に陥ってしまいます。



 ですが、彼女は、暫く入院していた病院から家に戻るとアリマティアス・スーナーツ)という男に電話をかけます。
 事故の前にステファニーがナイトクラブで騒ぎを起こして怪我を負ってしまった際、そこの用心棒だったアリに助けてもらったことがあり、そのときの彼の姿に何となく心が惹かれるものを感じたのでしょう。
 そのアリはステファニーの家にやってくると、嫌がるステファニーを外に連れ出し、海岸に出ます。
 さらに、彼が「泳ぎたい、君もどう?」と言って泳ぎだすのを見て、ステファニーもたまらず「私も泳ぐわ」と言い出します。アリは、彼女を抱えて海に入りますが、暫くすると、ステファニーは一人で泳ぎ出します。
 アリは、5歳になる息子サムを連れて姉のいるアンティーブにやってきたものの、夜警の仕事くらいしかなく、ときおり賭の格闘技試合に出場したりしています。



 こんなアリと両脚のないステファニーとの関係は、いったいどのように展開していくのでしょうか、……?

 ストーリー自体なかなかよくできていると思います。ただ、それもさることながら、本作は、やはりコティヤールが見ものではないかと思いました(注1)。



 なにしろ、『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』(2007年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞した彼女が、両足のない姿(CG処理によって可能となっています:注2)を画面に見せているわけで、さらには性的シーンにも意欲的に挑んでいます。
 本作を見ると、同じような年格好(38歳)で最近評判の吉瀬美智子とか中谷美紀などは、まだまだ甘いのかなと思えてきます(日本の俳優は、総じて外国人俳優に比べたら随分と甘えている感じがするところです)。

(2)本作は、誰もが感じるところながら、そのシチュエーションが、大評判の『最強のふたり』(注3)に類似していて、あるいはその女性版かといった感じがします。
 まず、『最強のふたり』では、スラム街出身で元気いっぱいの黒人ドリスと首から下が麻痺した大富豪フィリップのコンビが登場するのに対し、本作では、格闘技に長けた屈強の男アリと、車椅子の生活を余儀なくされているステファニーのコンビという訳です。
 さらに、『最強のふたり』では、フィリップの気持ちなどお構いなしに、ドリスは最初からいきなりフィリップを普通人扱いし続けるところ、本作でも、アリはステファニーを海岸に連れて行くと「泳ごう」といって海に入れてしまいます。

 また、DVDで見た『ソウル・サーファー』(2011年)にも類似している点があります。
 この映画では、13歳の少女ベサニーが、ある日突然サメに襲われて、左腕を肩のすぐ下のところから食いちぎられてしまいます(注4)。
 本作のステファニーの場合は、マリンランドで買われているシャチに襲われたとはいえ、その両脚の傷痕はベサニーの傷痕とよく似ています(この映画の場合も、CGによって上手く画像処理がなされています:注5)。

 本作が、これらの作品と違う点は、『最強のふたり』についていえば、例えば、アリには5歳になるサムという息子がいて、それが彼の生きがいになっていることでしょうし、また、『ソウル・サーファー』のベサニーは、片腕の姿でサーファーとして甦り、全国大会で上位入賞を果たしたりしますが、本作のステファニーの場合、事故の後はショーから全く離れてしまいます。

 とはいえ、一番違うのは、本作の場合、男女の愛情関係描かれている点ではないかと思います。
 このことに関連して、監督・脚本のジャック・オディアール氏と共同脚本家のトーマス・ビデガン氏は、原作本のクレイグ・デヴィッドソン著『Rust and Bone』〔(邦訳『君と歩く世界』(峯村利哉訳)集英社文庫〕について、「ステファニーとアリというふたりのキャラクターは、この短編集には登場しない。僕たちはデヴィッドソンの短編集からアイデアを引き出し、それを出発点として新しい物語の中に彼らを織り込んでいった」と述べています(注6)。

 そんなことを踏まえると、本作に対しては、ステファニーの悲惨な事故の方にどうしても目が向けられてしまうものの、両足をなくして不安にさいなまれるステファニーと、朴訥で一途のアリとの関係が、突然の電話で始まって、紆余曲折を経たあと、最後に「俺を見捨てるな」「見捨てないわ」に至るまで、実に入念に描かれている点にこそ注目すべきなのではと思いました。

(4)渡まち子氏は、「オスカー獲得後、ハリウッドでも大活躍のマリオン・コティヤールだが、本作ではほぼすっぴんでハンディキャップを持つヒロインという難役を好演している。南仏の輝く海の陽光や空気感もまた大きな魅力だ」として70点をつけています。



(注1)コティヤールのインタビュー記事については、例えば、こちらを。

(注2)この点については、この記事が参考になるでしょう。

(注3)この映画は映画館で見ているものの、クマネズミの怠慢によってブログに記事をアップしませんでした。

(注4)『ソウル・サーファー』では、片腕をなくして傷心のベサニーが、2004年のスマトラ沖地震津波に襲われたタイのプーケット島にボランティアとして行き、地元の子供たちにサーフィンを教える場面がとても印象的です。

(注5)この点については、この記事が参考になります。

(注6)邦訳本を当たってみると、本作は、同書の中の「君と歩く世界」と「ロケットライド」という2つの短篇について、「名前や性別や国境や舞台を変え、新たな世界観を作り上げて映像化し」ていることが分かります(邦訳本の「訳者あとがき」P.395)。
 なお、前者においては、テキサス州生まれのエディが語り手で、賭の格闘技の試合を戦っているところ、その最中に過去のことを思い出します(その中の一つとして、5歳の甥っ子ジェイクが氷の張った湖に落ちてしまう15年前の事故―その結果、ジェイクは20歳になっても植物人間状態のままです―のことが語られます)。
 また、後者においては、カナダ人のそれも男のシャチ調教師ベンジャミンが語り手で、シャチに左足を食いちぎられたことなどを語ります(他には例えば、両腕のないハイジと知り合いになるものの、「腕がない」ことが気になってすぐにわかれてしまいます)。



★★★★☆




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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Reason (まっつぁんこ)
2013-04-22 22:08:41
「日本の俳優は、総じて外国人俳優に比べたら随分と甘えている感じがするところです」同感。
何ででしょう?
シャチの処遇が気になる (すぷーきー)
2013-04-22 22:33:46
訪問&TBありがとうございます。
『ソウル・サーファー』は思い浮かびました。
あれは子供版、こちらは大人版の話ですね。
ラストが唐突に感じました。
井の中の蛙 (クマネズミ)
2013-04-23 06:11:24
「まっつぁんこ」さん、TB&コメントをありがとうございます。
いい加減な想像ですが、日本では、他の分野と同様に、映画分野にも外国人が殆ど入ってこず(監督にせよ俳優にせよ)、俳優らが厳しい競争に晒されていないためではないでしょうか?
Unknown (クマネズミ)
2013-04-23 06:12:47
「すぷーきー」さん、TB&コメントをありがとうございます。
本作は、R15+ですから、まさに「大人版」ですね。
ラストでは、生死の境から蘇ったサム、ボクシングのチャンピオンになって蘇ったアリ、そして両脚切断のハンディをものともせずに蘇ったステファニーが揃ったわけで、これはこれで物語が一段落したのではないかなと思いました。
なお、コメントのタイトルに「シャチの処遇が気になる」とありますが、『ソウル・サーファー』では、ベサニーを襲ったサメは捕獲されたところ、本作では、元々飼育されているシャチなのですからそのままだと思います(退院したステファニーが、マリンランドに行って、プールの中で泳ぐシャチとガラス越しに対面するシーンがありました!)。
言葉が足りませんでした (すぷーきー)
2013-04-23 21:31:05
『ソウル・サーファー』は観ています。
だから、これを観た時に思い出したし、鮫が仕留められたことも知っています。

この映画も観たので、ステファニーがガラス越しにシャチと対面したことも知っています。

人間が飼っている動物が人間を襲った場合、殺処分されることがあります。
あのマリンランドには、何頭ものシャチがいました。
そして、対面したシャチがステファニーの脚を喰いちぎった犯人だという説明はありませんでした。
個人的に、あの個体は犯人ではないと思いたいのです。
そうでないと、あのシャチの胃の中でステファニーの脚が消化されていると想像してしまうので。

だから、「ステファニーを襲ったシャチの処遇が気になる」んです。
シャチと調教師 (クマネズミ)
2013-04-24 06:24:35
「すぷーきー」さん、再度のコメント、ありがとうございます。
こちらも「言葉が足りませんでした」が、「すぷーきー」さんが、当然に『ソウル・サーファー』を見ていらっしゃると思ったので、コメントに「ベサニーを襲ったサメは捕獲された」と申し上げたつもりなのですが(本作のあの場面も、もちろんご存じだと思っています)。

なお、クマネズミは、ステファニーに寄ってきたシャチが、映画の上では「犯人」だと思っています(言うまでもなく、「個人的」にですが)。あの邂逅で、ステファニーは心の整理が付いて、マリンランドに戻ることはもうないのではないかと思いました。
傍証にしかなりませんが、原作本の短篇「ロケットライド」では、左足をシャチのニスカ(雌)に食いちぎられたベンジャミンが、再びニスカに会いにマリンランドに出かけます。何事か決着をつけに。

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