映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

パブリック・エネミーズ

2009年12月29日 | 洋画(09年)
 『パブリック・エネミーズ』を日比谷のTOHOスカラ座で見ました。

 『チャーリーとチョコレート工場』や『スウィーニー・トッド』など映画ごとに全く違った顔を見せるジョニー・デップが、今度はどんな顔を見せてくれるのだろうという期待で映画館に出かけてみました。

 実際のところ、今回の作品は、ジョニー・デップの格好の良さが前面に出ていて、その意味で実に魅力あふれる映画になっていると思いました。

 お話の方は、アメリカのギャングとFBIとの戦いが中心で、1930年代のシカゴの街の様子などが細部にまでこだわって描き出されています。

 この関係では、劇場映画ではなく、深夜に何度も繰り返し放映されたTVドラマ『アンタッチャブル』が描いている状況の丁度逆になっている感じで、大層面白いと思いました。

 無論最後には射殺されてしまいますが、『パブリック・エネミーズ』では、実在の銀行強盗のデリンジャー(ジョニー・デップ)が主役で、それを追いかけるFBI捜査官が脇役となっています。
 これに対して、『アンタッチャブル』では、FBI捜査官エリオット・ネスが主役で、ギャングが脇役になっているので、まるでさかさまの関係にあるように思えるのです。

 もっといえば、TVドラマとしての『アンタッチャブル』では、カポネが逮捕されたあとのギャング団(フランク・ニッティらが中心)とFBIとの戦いが描かれますが、フィクションの割合が相当高そうです。
 他方、『パブリック・エネミーズ』も、禁酒法が廃止になった後の時代を描いていますから(1933年から1年ちょっとの間)、時期的にはあるいは若干オーバーラップするかもしれないものの(同じように、フランク・ニッティが登場します!)、実話に基づいたストーリーなのです。

 こんな関係にあるわけですが、逆に両者に共通するのは、何といっても主人公の格好の良さでしょう。とりわけ、FBI捜査官エリオット・ネスを演じたロバート・スタックは大層魅力的でしたし(吹き替えを担当した日下武史の声も素晴らしかったのですが)、こちらの『パブリック・エネミーズ』におけるジョニー・デップも実に格好がいいのです(フランク・ニッティは、TVドラマの方がズッと個性的な俳優が演じていました)。

 要すれば、今回の映画においては、枠組みは歴史的にガッチリと作られているとはいえ、そうした枠組みの中で、ジョニー・デップの魅力を最大限に引き出すべく作品が制作されているのではと思いました。

 加えて、デリンジャーを中心とする銀行強盗団とそれを捕まえようとするFBIとの間の銃撃戦は激烈極まりないく、まるで日本のやくざ映画の出入りのような感じを受けてしまいます。
 そうです、ジョニー・デップが演じているデリンジャーは、新興のやくざ集団に結局は殺されてしまうことが分かっていながらも、刀を振りかざして単身突入する昔堅気が抜けない鶴田浩二とか高倉健が演じた役どころなのではないでしょうか?なにしろ、銀行強盗では、ノミ行為といった新しい儲け口から揚げられる資金の1日分しか獲得できないことが分かっていながらも、デリンジャーは、あくまでも銀行強盗にこだわるほどの昔堅気の男なのです!

 この映画に対しては、評論家の方でもやや意見が分かれるようで、一方で、
 前田有一氏は、「細部にこだわりぬいたマイケル・マン監督の挑戦は確実に成功しているが、それがイコール映画の面白さにつながらないのが難しいところ」で、「主人公の人生は確かに今見ても面白いが、「それで?」と思わず言いたくなってしまう」として55点を、
 福本次郎氏は、「ジョンが強盗を繰り返す理由としてはビリーの存在は影が薄く、いまひとつ2人の深い絆が見えてこ」ず、特に「ジョンが警察署の捜査本部に堂々と入って行く場面には疑問を挟みたくなる。ジョンが自分の死期を予感していることを表現したかったのだろうが、それまで積み重ねてきたリアリティが一気に崩れてしまった」として50点を、
それぞれ与えています。

 ところが、他方で、
 渡まち子氏は、「スリリングな逃亡劇と美男美女が織り成すラブ・ストーリー」であり、ジョニー・デップが「コートを華麗になびかせて、銀行のカウンターをひらりと飛び越える様は、今では滅多に見られないダンディな銀幕のスターそのものだ」として70点を、
 服部弘一郎氏も、「1930年代の風俗やファッションが華麗に再現されているのがこの映画の見どころ」であり、「随所に見せ場たっぷりなのだ」として70点を、
それぞれつけています。

 あんなに面白いのに「じつに退屈だ」と言い放つ前田氏の論評は理解し難いですし、福本氏は、「それまで積み重ねてきたリアリティが一気に崩れてしまった」と述べますが、この種の映画でどうして「リアリティー」という言葉が出てくるのかよく分かりません。
 やはり、「本作には、観客がスクリーンで最も見たいと望む要素が詰まっている」とする渡氏の論評に賛意を表したいところです。



象のロケット:パブリック・エネミーズ


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1 コメント

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TBありがとうございました (KGR)
2009-12-29 08:34:39
評論家の意見を比較するのは面白いですね。
私は評論家の意見なんて所詮提灯記事だと思っていたので、こういうビッグネームの映画で酷評があるとは知りませんでした。

評論家の皆さんには時代背景に踏み込んだ意見がほしかったところです。

ところで私の記事にもありますが、エリオット・ネスはFBI捜査官ではないようです。
映画版(ケビン・コスナー主演)のクレジットには、財務省特別捜査官とあります。
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