駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

川本三郎再び

2012年08月21日 | 

    

 愛読書もあるが、それよりも愛著者の方が私の本嗜好を正確に伝えるだろう。川本三郎さんは好きな書き手の一人で、小旅行記をあれこれパラパラと何度も読んできた。しかし、「今も君を想う」以降は、何となく遠ざかっていた。川本さんの隣人を自認していた私には、以降の物は辛いというかそぐわないというか、ちょっと取り乱していると感じて離れているのが礼儀のような気がしていたからだ。

 それが家宝は寝て待てということがあるようで、「君のいない食卓」を自筆の署名入りで贈っていただく幸運に恵まれた。自筆の署名を見詰めてから、そっと真新しい本を開いて読んでみた。今までの作品とは趣が少し違う、心に滲みる思い出が綴られてる。なぜ川本三郎を愛読してきたか、分かったような気がした。ほぼ同年代のせいもあるだろうか、とてもよく分かる。何の説明も要らない。

 尾張一宮は木曽川を挟んで私の故郷美濃の田舎からたかだか二十分ほどの所だ。奥様が鯉の洗いをご存じなかったのは意外だった。一宮からたかだか十分ほどの笠松辺りには川魚の料理屋がいくつかあったはずだ。私よりも五つほどお若いとしても、まだその頃なら残っていただろう。鰻の洗いだけでなく、鯰の蒲焼きもよく出ていたと記憶する。そのものずばりの鯰屋という屋号の老舗も岐阜市内にあった。川本さんに是非一度川魚の穴場美濃へと申し上げたいが、さずがに今はもう在にも川魚料理の店は残っていないかもしれない。

 「君の居ない食卓」をしみじみと楽しく読んだけれども、どうも医者の本能というかちょっと心配なところも感じ取った。一読者として、次の本を楽しみにしている者が居る、今も川本三郎を待つ書斎はあることを伝えたいと強く思った。

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生活保護の診断書を書きながら

2012年08月20日 | 医療

     

 朝夕めっきり涼しくなった。静かな蝉の声と言えば形容矛盾のようだが、例年に比べれば静かな蝉の泣き声を聞きながら月曜の朝を駅まで歩いた。流石に二十分も歩くと汗ばむ。

 生活保護費が削られると新聞の見出しにあった。私の医院には二十名以上の生活保護の患者さんが通院している。彼等のために、毎月数枚の診断書を書いている。数多い書類書きの一つなのだが、毎回殆ど同じ内容を埋めてゆくわけで煩雑に感じる。書類の方も削ってくれないかなあ。

 当院の生活保護の患者さんは二名を除いて自力で通院されており、待合室に座っていれば外見からは全く普通の患者さんと区別が付かない。ただ自力で生活費を賄うことが出来ないところが違っている。若い時からの精神や身体の障害で、就労困難な人も居るが、キリギリス生活だった人も多いと見る。意地悪で言うのではないが、蓄えがなくても生きていける国、日本はなんと恵まれた国かと思う。反面、弱者を助けるのが減って意地悪が出てきている国でもあるようだ。

 開業医は収入面では恵まれているが、何の保証もないし、どんな患者さんでも差別しないで一人ひとり手間を掛けて診察して法定の価格を頂いている。そして当院では八人の雇用を生み出し、周辺の薬局や薬品メーカーを含めた医療関係事業に収益をもたらしている。患者さんの支持あってのことではあるが自立できている。

 社会の最前線から、忌憚のない情報を届けられる立場にあると改めて思う。

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京都と東京、往来

2012年08月19日 | 小考

    

 南北ほどではないが、東西でも違いがあるのは地方色だろう。旅の大きな楽しみの一つに訪れた土地固有の風光と人物に出会うことがある。

 関東と関西の文化肌合いの違いは既に多くの人によって繰り返し論じられてきた。関東は東京中心で一括りにしてもさほどクレームはでない?が、関西は一括りにすると京阪神それぞれからブーイングがある。

 私は関西と関東の間に住んでいるので、どちらにも行く機会が多い。事細かに東京と京都の違いを説明するのは私の手に余るが、実感から代表選手を挙げて、端的に違いを露わにしてみよう。

 江戸っ子代表はドイツ文学者の高橋義孝先生だ。北大を東京から遠いのに嫌気が差して辞めたあと、九大名大の教授を歴任しながら東京を離れず集中講義で済ませたという先生だ。済ませたなどと書くと、どこの馬の骨か馬鹿者とお小言を食らうかな。確か、吉村昭のエッセイに先生が電車で席を譲られる場面が出てきた。何とも洒脱で東京というか江戸っ子を感じた。山口瞳や吉村昭も関西ではあり得ない人と思う。

 京都人代表は伊吹文明氏だ。よく知りもしないが、まあプディングの味は一口で分かるからと、京都代表に挙げさせていただく。

 例によって出過ぎたことを書いたかもしれない。

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経済論争は蒟蒻問答?

2012年08月18日 | 

      

 新幹線の中で何か読むものをと、本屋を急ぎ足で一回り、平積みになっていた高橋洋一さんの「グラフで見ると全部わかる日本国の深層」を標題に惹かれて買った。高橋洋一という人は胡散臭いというレッテルを張られて、無視される傾向があるようだが、書いてあることは説得力があり成程と読んだ。全国紙の紙面から感じ取れる政治経済の現状分析と相当違っており、不思議な気がした。政治がらみでは当然かもしれないが経済学?にも恣意が紛れ込み、我田引水論がまかり通るように見える。どうも経済の分析評価では視点と選らんだデータによって生まれる偏りが許されるらしい?。噛み合わない瓢箪泥鰌の蒟蒻問答が政治だけでなく経済にも浸食していると感じた。

 高橋洋一氏の分析は私には適確に感じられ、マスコミの流布する現状分析には意図というか意向が効いているのだろうと推測した。であれば、異端扱いで初めて指摘できる事柄なのかもしれない。

 高橋さん個人の感想を言えばやや教養と誠実味が薄い印象を持った。切歯扼腕の立場に置かれて鋭くなりがちなのは分かるが、失礼ながら惜しいと思った。

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好奇心の広げる世界

2012年08月17日 | 自然

    

 好奇心こそが科学の原動力なのだ。なぜ、一体どうなっているかと不思議に思う気持ちが科学の地平を広げてゆく。

 名は体を表すキュリオシティが無事火星に着陸した。どのようなデータを送ってくれるだろうか、本当に楽しみだ。火星からは光と同じ速度で伝わる電波でさえ5分も掛かる(火星までの距離は一定でないので位置によっては十分以上掛かる)。往復では10分、こんなゆっくりしたやりとりで機器をコントロールするのはとても難しいに違いない。

 しかもパラボラアンテナで利得を稼ぐにしても、たかだか白熱電球程度の高周波出力で一億万キロの距離を通信するわけだから電波は極めて微弱で、それこそ蚊の鳴く音のようなものだろう。それでも間違いなくしかも効率よく情報を伝達するために、いろいろな誤情報を検出し訂正するシステムが使われているはずだ。それによって、たかだか五六人の伝言ゲームでも随分話が変わってしまう伝達力しかない人間には不可能な精度で物事を伝えている。面白いことにそのシステムを考え出したのも人間なのだ。

 数学、物理、化学のオリンピックでの金メダルは新聞に小さく報じられるだけで、地上波テレビで騒がれることはない。しかし、素晴らしさはロンドンオリンピックのメダルに優るとも劣らないと思う。地上波テレビなぞに出ることはないが、優れた仕事には正確な評価と敬意が払われることを願う。芸能化しないと評価されないのは民主主義の副作用だ、情報伝達を司る人は調合を間違えないように。

 ツウィンクルしない赤い星、火星。フォボス(狼狽)とダイモス(恐怖)を従えるお前は一体何者か?

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