既に旧聞に属するだろうか、安西水丸さんが亡くなった。なんとなく生身の感じのしない人だったし、実年齢よりも若い印象だったので突然の訃報に驚いた。
正直、水丸さんは村上春樹の読者でなかったら、目にしても興味を引かなかったかもしれない。、シンプルでしゃれたプロの手管を感じさせない絵を描く人だった。いっしょにされては迷惑かも知れないが和田誠、安西水丸、沢野ひとしは私の中では同系統のイラストライターに分類されており(沢野ひとしはちょっと毛色が違い、品格はもう一つ)、素人の私にも書けそうな絵と文章を書く融通無碍のイラストライターのお一人だった。
水丸さんは印象と違い七十を過ぎておられ、成人病に襲われても不思議でないお年であったのだが、皺や汗や苦節に無縁な感じで不思議な明るさと爽やかさを持っておられた。失礼ながら独りで輝くと言うよりは主演男優と言うよりは光を反射するさりげなく味のあるバイプレーヤーだったように思う。
ご本人はもとより、読者にも突然の訃報だったのだが、あっさりしていていかにも水丸さんらしいなと今は感じている。明るい水色と軽みの中にどこか遊び心がある画を思い浮かべている。