名古屋場所の前の6月、立浪部屋の力士たちは明生(28)の故郷奄美大島の瀬戸内町を訪れている。大島海峡を挟んで加計呂麻島を望む風光明媚な場所だ。立浪親方や大関を目指す豊昇龍(24)や天空海などの力士たちは明生の故郷の海を眺めて何を思ったのだろうか。
モンゴル出身の豊昇龍はその後の名古屋場所で優勝を果たして大関に昇進した。その伝達式で述べた口上は「気魄一閃の精神」。それは愚直に真っ直ぐ、力強く立ち向かってゆく精神力のこと。この言葉になぜか私は、地味な努力をこつこつ積み重ねる兄弟子の明正の姿を重ねていた。
豊昇龍が立浪部屋入門のいきさつはつぎのようだ。叔父の横綱朝青龍の暴れん坊イメージから、角界入りの際はどこも敬遠したらしい。外国人力士は各部屋1人の狭き門、入門を許可したのが現役時代から朝青龍と親交があった立浪親方(元小結旭豊)だった。
おもしろい見方をしている人がいる。叔父さんと違って豊昇龍はトラブルを起こすことはないだろう。なぜなら豊昇龍は兄弟子の明生には頭が上がらない。ちょっと甘い立浪親方よりも苦労人の明生の影響のほうが大きい。何より豊昇龍は性格が叔父さんよりおっとりしている。