「僕が知っている二人の日本人について話すと前に約束したね。
僕が初めて会った日本人は、タケウチアキラさんという(当時)65歳前後の元建築家。
若い頃にフィンランド人の建築家アールトから深い感銘を受けた彼は、アールトの研究をしたくて単身フィンランドにやって来たんだ。おそらく、たびたび日本に残してきた家族の元に帰っていったのだとは思うけど、とにかく彼は自分の長年の夢を叶えた。
彼が当時トゥルクにいたのは、トゥルク大学ではアールトの講座があった為。
もちろんアールトの書物や記録は当然フィンランド語で書かれたものばかりだったから、研究の為にタケウチさんはフィンランド語を何年も勉強し、僕が会ったころの彼のフィンランド語は流暢だった。
君には想像できるかい? ただ研究のために、家族のもとを離れ、言葉も分からない土地で一人住むことを。僕らは彼を心底尊敬していたんだ。これほどの情熱を持つ続けられる人も、なかなかいないからね。
僕が彼に最後に会ったのは、もう10年も前だけど、僕は決して彼を忘れない。
もう一人はソフトウェアデザイナーの、サクライコウジさんという、当時30歳の男性。彼は僕の職場で6ヶ月間研修をし、そのあとスウェーデンに移っていった。
僕は彼がトゥルク空港に降り立った時のことをよく覚えている。彼と奥さんは、本当に不安気だった。その日は冬の真っ只中で、たくさんの雪が降り積もり、それはそれは寒い日だったんだ。おまけに1日に数便しか発着しないトゥルク空港は、混雑した空港に慣れている彼らにすればとても辺鄙に思えたことだろう。
僕は彼らが慣れるまで、案内係をすることにした。
最初に大きなスーパーマーケットに案内した時、コウジ夫妻は驚いた。そのスーパーマーケットは12,000平方メートルの広さで、日中であったにもかかわらず、客は数人しかいなかった。巨大なスーパーマーケットに数人の客というのが物珍しかったみたいだった。
それにしても、その店で豆腐を見つけた時の彼らの喜びようといったら!
君も豆腐は良く使うかい?
コウジはアメリカに留学していた時、寿司レストランでアルバイトをした経験があるそうで、彼らの家のディナーに招かれたときなどは、奥さんと一緒に、そばや寿司、照り焼きチキンを振舞ってくれた。
流暢な英語を話した彼の、ユーモアのセンスは最高だった。
その彼と最後に会ったのももう10年くらい経っているけど、どうしているのだろうか。」
以上は、約3年前にフィンランドのペンフレンド、ユーハさんから貰ったメール抜粋の訳です。
このユーハさんと私の文通は彼の仕事が忙しくなって、2年前に途切れてしまいました。
しかし、昨日また再開したので、ふと、彼から来たメールを読み返していました。
ユーハさんは現在トゥルクには住んでいないので、タケウチさんの消息も、そして(ユーハさん自身が転職をしていることもあって、)サクライさんの消息もわかりません。
しかし、今私がユーハさんというフィンランド人と友人でいられるのは、彼らの強烈な思い出がユーハさんにあって、彼が日本人のペンフレンドを探そうと思ったことから。
私にはまったく縁がない、タケウチさんとサクライ夫妻。会って、お礼でも言いたい気分です。