三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

アラン・レヴィノヴィッツ『さらば健康食神話』(2)

2023年03月22日 | 問題のある考え

アラン・レヴィノヴィッツは『さらば健康食神話』で、食べ物について広く信じられているニセ科学によって作られる病気を「集団社会性疾患」と名づけています。
ネットで検索しても出てこない言葉ですが、病気になると思い込んで心身が過剰に反応する、一種の集団ヒステリーということだと思います。

現代アメリカの食についての論説では、「自然」か「人工」、「良い」か「悪い」、「自然食品」か「加工食品」という二元論で判断する。
現代文明は邪悪であり、原始人は自然の中で生活していた。

農薬、化学肥料、化学調味料、添加物など化学物質は危険とされるわけです。
しかし、昔の生活が健康的だったわけではないし、病気にかからなかったわけでもありません。

砂糖や塩、脂肪の摂取量についても、ちょっとでもたくさん摂取したら病気になるというような極論を、アラン・レヴィノヴィッツは批判しています。

化学肥料や農薬によって野菜の生産量が増え、飢える人が減りました。
ワクチンによって多くの病気の感染者が少なくなりました。
インチキ健康食・健康法の信奉者、健康が至上の価値となっている健康至上主義(健康病)は反ワクチンになりがちだと思います。
左巻健男『陰謀論とニセ科学』からです。

デンバー大学のジェニファー・ライヒはワクチンを拒否する母親たちを調査研究し、その姿勢を次のようにまとめている。

私が調査した母親たちは、ワクチンが不要になると考えられる方法で子供たちの健康を守る努力をしていると説明しています。オーガニックフード、母乳、家での健康を増進する実践。

いい食べ物で免疫力を上げようということでしょうが、ワクチンは不要だ、毒だということになると極論です。

そこにつけこんで、ニセ科学によって金儲けする人がいます。
どういう手口か。

まず、病気の原因をやり玉に挙げる(グルテンやグルタミン酸ナトリウム)。
そして、背後に存在する巨悪の陰謀を暴く(政府、主流医療の医師、御用学者は、食品業界や製薬会社らから資金提供を受けている)。
そうして、巨悪を攻撃する高潔な研究者や医師を持ち上げる。

しかし、彼らは健康法、ダイエット食品、代替療法などで儲けるわけです。
だましのテクニックの一つは人間の弱みをつくことです。

ロバート・B・チャルディーニ『影響力の正体』にある、人に影響力を与える6つのルールが参考になります。

・比較のルール
買い物の際によりどころにしているのが「高いもの=いいもの」「安かろう悪かろう」ということで、値段が高いといいものだと思いがちである。
これは費用対効果、すなわち金額と品物の質や効果が正比例すると考えるわけです。

絵門ゆう子さんは、がん患者は「値段が高いから良い結果が出るかもしれない」という思考回路があると、『がんと一緒にゆっくりと』に書いています。
グルデンフリー食品は通常のものより2倍以上の値段がします。

・整合性のルール
人は自分が決めたことは正しいという態度を取る。
競馬で、金を賭ける30秒前までは自信がなく迷うが、賭けた30秒後には自信満々になる。
なぜなら、自分は正しい選択をしたと思い込むから。

間違いや失敗しても認めない。
ダメ男となかなか離婚できない、戦争に負けそうでもずるずる続ける、騙されたことを認めないなど。
自分がしたことと矛盾しないようにしたい思いがあるから、つじつま合わせをする。

絵門ゆう子さんは西洋医学を拒否したために、今さら病院には行けないと思います。
一時的に悪くなるという好転反応という言葉もつじつま合わせです。
化学調味料で体調を崩したと信じている人は、心理的なものだと言われると反発します。

世界の終末の予言が何度はずれても、エホバの証人の信者は脱会しません。
法の華三法行やオウム真理教の教祖が逮捕されても、信者は活動を再開しています。

ケチくさいと思われたくない気持ちが人にはあるので、最初は小さな要求から始めて、だんだんと大きな要求をする。
宗教だと、年会費1万円にして、最初は安い、良心的だと思わせ、だんだんと神殿を新築する、大祭があるなどと言っては献金させます。

・社会的な証拠へのルール
みんなが買う人気商品は、さほどほしくなくても行列しても買ってしまう。
ある考えを正しいと思う人が多ければ、その考えは正しいと思う。
ある行為をしている人が多いほど正しいと考える。

テレビやベストセラーで語られることは本当だと思いがちです。
グルデンや化学調味料の害を説く本を読むと、体調がよくない気がしてくるわけです。

ネットは島宇宙だと言われますが、私も自分と同じ考えのものしか見ないので、みんなが私と同じ考えなんだと思います。
しかし、そんなことはありません。

絵門ゆう子さんは西洋医学を否定するガン仲間と親しくなり、さらに民間療法にはまってしまいます。
陰謀論を信じる人も島宇宙で自足しているのでしょう。

・好意のルール
知人や好きな人から何かを頼まれたら、たいていはイエスという。
マルチ商法がそうで、知人から勧められると、つき合いで買ってしまいます。
絵門ゆう子さんは草の根療法や気功の「先生」を訪れたのは、それぞれ違う知人の紹介によってです。

・権威のルール
肩書き・・・大学教授、医者、上司
服装・・・高級そうなスーツ、警備員の制服
装飾品・・・高級車、宝石

反ワクチンの主張する人の中には医学部教授、医師、弁護士などもいます。
そうした医師の中にはアヤシそうな代替療法を行う人もいます。

有名人がある商品を愛用していると売上げが伸びる。
絵門ゆう子さんはタレントであり、著書もあります。

気功先生のところに初めて行った時のことを、「凜とした空気が流れていて、埃一つない。袴を身につけた先生は、修行僧のように引き締まった雰囲気を漂わせていた。お香が焚かれた部屋で掌を通して気を入れる」と書いています。

・希少性のルール
あなたにだけ特別情報を教える。
モルモン教の教会には特別の区画があり、特に認められた信者だけが入ることができる。
特別開帳みたいなもんでしょうか。。

絵門ゆう子さんはアメリカ製のマイクロ波の器具による治療します。
医師は「日本でこの機械を持っているのは私だけだから」と自慢げに目を細めた。

数量限定の高級時計や車は高くてもすぐに売れます。
メーカーのほうも限られた人にしか売らないそうです。

コメント
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