陰謀論をなぜ信じるのでしょうか。
國枝すみれ「フェイクを信じ、正しい情報に耳を塞ぐ 陰謀論者の思考とは」(2021年5月18日)
ケント大の陰謀論研究によると、陰謀論者は3つの心理的な動機を満たそうとしている。
① 知識への欲求
パンデミックやテロ事件のようなことが起きると、起きた理由を知ろうとする。
② 安心したい欲求
自分が事態を制御できていないことについて、その説明を求める。
③ 優越感への欲求
「私は、他の人が持っていない情報を持ち、真実を知っている」と考えることで気持ちよくいられる。
https://mainichi.jp/articles/20210516/k00/00m/040/228000c
① 知識への欲求
人はある出来事が起こると、その原因を知って理解したいと思う。
ただし、自分にわかる単純な説明を求める。
同一の現象について複数の説明がある場合、もっとも単純な説明を選ぶ。
陰謀論の世界は、悪の勢力が善の勢力を支配しようという善と悪との対立なので、因果関係が単純明快でわかりやすい。
悪の勢力とされるのは、共産主義者やユダヤ人など、日ごろから反感や不信感を覚える人・組織・国家が多い。
内田樹「反知性主義者たちの肖像」(『日本の反知性主義』)は、エドゥアール・ドリュモン『ユダヤ的フランス』を紹介しています。
フランス革命とユダヤ人を結びつけた陰謀史観の物語である『ユダヤ的フランス』は19世紀のフランス最大のベストセラーになる。
物事の原因は多くの要素が絡み合っており、単純には説明できないから、フランス革命がなぜ起きたかを一言で答えることは不可能。
なのに、人はあいまいな説明を嫌い、一言で答えを求めた。
それがユダヤ人の陰謀という答えである。
多くの読者が熱狂的なファンレターを送った。
「一読して胸のつかえが消えました」
「頭の中のもやもやが一挙に晴れました」
「これまでわからなかったすべてのことが腑に落ちました」
「永年の疑問が一挙に氷解しました」
あるいは、ジョセフ・マッカーシーの共産主義者陰謀論。
日本であれば在日陰謀論でしょうか。
吉井理記「DHC またも「ヘイト声明」…なぜ差別者は「被害者」を装うのか」(2021年5月19日)
健康食品などの販売会社DHCの吉田嘉明会長がこんな声明を出した。
https://mainichi.jp/articles/20210519/k00/00m/040/095000c
② 安心したい欲求
人は不安を抱えていると安心を求める。
真鍋厚「コロナは陰謀」と信じる人々を生む深刻な病巣」(2020年8月12日)
陰謀論がはびこる背景には、身近な人間関係の消失によって生じる社会的孤立の問題がある。
「自分は社会から排除されている」
「自分は社会でふさわしいポジションを与えられていない」
このように感じている者ほど陰謀論にのめり込みやすい。
https://toyokeizai.net/articles/-/368770
満されない思いを持つ人は承認欲求を強い。
物事がうまくいかない時、人のせいにできる陰謀論は便利です。
③ 優越感への欲求
優越感についてはすでに書いているので省略。
もう一つ、病的な妄想の場合もあると思います。
「陰謀論、家族引き裂く…SNSで傾倒 言動激化」(読売新聞2021年3月13日)
陰謀論を信じ込んだ家族や友人とどのように接したらいいのか。
「相手の話をバカにしない」
「科学的根拠を示しても逆効果になる」
「相手の心の奥にある不安や心配に耳を傾け、共感する姿勢を示す」
「否定したり事実を提示して説得したりするより、その人が信じる背景を理解する」
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20210313-OYO1T50000/
陰謀論を信じて仕事を辞める、離婚するなど、人間関係の崩壊、社会生活の破綻が生じたなら妄想性障害かもしれません。
碓井真史「妄想を持つ人との付き合い方:困っている人々を助けるために」
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuimafumi/20170711-00073171/
妄想性障害は、夫や妻が浮気をしている、近所の人が嫌がらせをしているなどの妄想を確信し、その妄想が長く持続する病気です。
「宇宙人にテレパシーで操られている」「悪霊の声がする」といった訴えなら、すぐに妄想だとわかりますが、妄想性障害の場合は幻覚、幻聴がなく、言っていることはあり得ることなので、当初は本当のことだと思います。
しかし、だんだんとつじつまが合わなくなり、おかしいと気づきます。
妄想性障害から陰謀論を信じる人もいるように思います。