水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<10>

2015年04月23日 00時00分00秒 | #小説

 狛犬(こまいぬ)は毎朝、その車で里山の家へ迎えに来ていた。今朝も、狛犬が運転する車中で、里山は駒井からの入った話を受けていた。
[任せて下さい。私がなんとかしましょう…]
「そんなことが出来るんですか?」
[ははは…。なに、これで結構、人脈はありましてね]
「そうなんですか? よろしく、お願いいたします」
 携帯は、それで切れた。
「なにかと大変ですなぁ~」
 ハンドルを操作しながら、狛犬が気楽そうに笑った。里山は少し腹が立ったが、怒らず流した。
『そうなんですよ、これでどうして、なかなかです…』
 キャリーボックスに入った小次郎が、里山に代わって狛犬へ返した。
「私も長く人生やっとりますが、猫さんと話せるとは思ってもみなかったですよ、ははは…」
『僕も珍しい名を知りましたよ』
「そういや、珍しい姓だとよく言われますな」
 運転手募集の面接で里山が狛犬を選んだのは、その辺りの珍しさも加味されていた。狛犬の運転 捌(さぱ)きは絶妙で、車の動き出す気配も感じられず、止まるときもまるでエレぺーターが止まった感じだった。
「着きましたよ…」
 車が止まったのは、某編集社ビルの駐車場だった。


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