水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<49>

2015年04月12日 00時00分00秒 | #小説

「小次郎の活躍で、我が家はすっかり金持ちになったが、どうも住みづらくなった…」
『今の日本に似てませんか?』
「そういや…俺の子供時代は国全体が住みやすかったな」
 里山はそう言いながらテレビのリモコンを弄(いじ)った。テレビ画面には、ひと月ほど前に収録された[小次郎ショー]の様子が映し出されていた。里山は画面を見ながら茶を飲み、小次郎は高級陶磁器製のウォーターボールに入った水を舐(な)めた。缶詰の空き缶の水を舐めていたときから考えれば、破格の出世である。活躍の結果、暮らし向きはよくなった? いや、それはまだ里山にも小次郎にも未知数だった。物的には恵まれたのは確かだった。ただ、気分的には恵まれていなかったのだ。里山も小次郎もマスコミという自分達を包み込む見えない圧力に翻弄(ほんろう)されていた。里山は木邑(きむら)監督がクランクインしたその日、突然、歌い出した、♪そのうち、なんとかなるだろう~~♪を思い出した。里山は急に立ち上がると居間の隅に置いてあるギターを手にし、下手(へた)にジャンジャカと弾き始めた。急に襲った土石流のような雑音に、小次郎は緊急退避を余儀なくされ、素早くその場から走り去った。
「なによ! テレビ、点(つ)けっぱなして!」
 小次郎と入れ替(かわ)ってキッチンから沙希代が現れ、リモコンでテレビを消した。里山はとり憑(つ)かれたように沙希代を無視し、無言でギターをジャンジャカと弾き続けた。


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