水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<50>

2015年04月13日 00時00分00秒 | #小説

「相変わらず、下手(へた)ね…」
 キッチンへ戻(もど)り際(ぎわ)、沙希代が発した必殺のひと言で、ギターの音がピタリ! と止まった。
 夜が更けた頃、沙希代は寝静まり、こっそりとベッドを抜け出した里山と小次郎の談義が始まった。
「お前の活躍のお蔭で、俺は第二の人生を進めている。改めて、ここで礼を言っておくよ」
『嫌ですよ、ご主人。そんな他人行儀な…』
 小次郎は小(こ)っ恥(ぱ)ずかしくなり、長く伸びた口毛を少し動かすと、尻尾の先をピクリと動かした。
 あれこれの雑事はいろいろと起きたが、ともかく小次郎の活躍で里山は新たな生き甲斐を見つけることができ働いている。かなり疲労 困憊(こんばい)はしているものの、心理(メンタル)面での満足感はあった。勤務の頃の、あの嫌味な蘇我部長の顔を見ないで済(す)むのだ。
「小次郎…俺達は、これでよかったんだよな?」
『…ご主人がよかったと思っておられれば、それでよかったんだと思います。僕は、どちらにしても、もともと捨て猫ですから…』
「そんなに僻(ひが)まないでも、いいだろうが…」
『僻んでる訳じゃありません。それが事実ですから…』
「まあ、暮らし向きは幸いよくなったし、家内の機嫌もいいしな…」
『奥さん、を辞められて、太られましたね』
「ははは…、テレビを観ながら煎餅(せんべい)ばっかり食ってるからな。小次郎の活躍の成果だ」
『成果かどうか…』
 里山が笑い、それに吊(つ)られて小次郎もニャニャニャと笑った。

                                          第③部 <活躍編> 完


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