水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<46>

2015年04月09日 00時00分00秒 | #小説

 映画の反響とは別に、小次郎は世界的に別の意味で注目されていた。言わずと知れた、人間の言葉を話せる猫としての注目だった。生物学者を始めとする世界中の多くの学識者が里山の周(まわ)りを取り囲み始めた。当然、それにはマスコミの報道陣も加わった。映画[吾輩は猫である]の報道合戦とは別腹で、里山と小次郎は二重のオッカケに悩まされるようになったのである。
 パタンキュ~で玄関に眠り込んだ次の朝、里山達は早朝から賑(にぎ)やかな話し声に起こされた。本来なら、近くにある公園の樹々で囀(さえず)る小鳥達に起こされるのだ。それが、人がガヤガヤと話す騒音にに近い音で起こされたのだ。気分のいい訳がなかった。里山よりもご機嫌が斜(なな)めなのが先だ。寝室のカーテンを荒けなく開けると、これ見よがしにベッドに横たわる里山の方を見て言った。
「やかましいわねっ! アレ、なんとかならないの…」
 里山は目覚めていたが、狸(たぬき)寝入りを決め込んだ。返事をすれば、まあ、数十分は小言(こごと)を聞かされる人にならねばならない。それでも2、30分もそのままにしていると、さすがに里山も腹が立ってきた。もちろん、里山が跳(は)ね起きたときの沙希代はキッチンで朝食の準備をしていた。
 沙希代が新聞受けから新聞を取り出しに玄関の外へ出たとき、待っていました! とばかりに報道陣の質問が垣根越しから聞こえた。一人ではなく、あちこちから発する声で、まるで騒音状態だった。
「みなさん、おはようございます。朝早くからご苦労さまです…」
 取り敢(あ)えずオブラートで辛(にが)い薬を包み込むように沙希代は朝の挨拶をした。里山家の場合はカプセルではなくオブラートの例(たと)えが似合う家だった。


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