水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<45>

2015年04月08日 00時00分00秒 | #小説

「里山さんにも分かりますか。私も数度のテレビ出演や取材は今までにも何度かあったんですがね。こうも連日、押しかけられるとは思いませんでした」
 二人の話を耳にし、小次郎も木邑(きむら)監督が言った意味を理解した。
 さて、映画[吾輩は猫である]は、その後、世界の有名な賞のグランプリを総ナメにする栄誉に輝いた。こうなると、小次郎も世界のトップスターである。小次郎を取り囲む報道、取材、出演依頼の合戦は益々(ますます)、熱を帯び、里山や小次郎を疲れさせていった。飲みつぶれた訳でもないのに、里山は小次郎が入ったキャリーボックスを玄関で開けると、パタンキュ~と上がり框(かまち)の上で眠ってしまった。
「あらっ! こんなところで…」
 沙希代が奥から現れ、急いで毛布を取りに奥へ戻り、また出てきた。里山が気づいたのは一時間ばかりしてからである。
 小次郎はタフだ。若いということもあったが、人間のように労働感がないのだ。結果、パタンキュ~の里山を横目にスタコラとキッチンにある自分のブースへ入り、ドライキャットフードを齧(かじ)った。ご主人には悪いが、人間に付き合ってはいられない…というのが偽(いつわ)りない小次郎の心境だった。我々はあなた方とは違い、修羅場を生きてますからねぇ~という、動物的な主張もあった。
「なんだ…寝てしまったか」
 里山がネクタイを緩(ゆる)め、背広の上着を脱ぎながらキッチンへ入ってきたときは、沙希代も小次郎も眠ってしまっていた。


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