水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<41>

2015年04月04日 00時00分00秒 | #小説

 万事が万事、監督の指示が優先される。それは、スタッフだけでなく、すべての出演者に言えた。
 小次郎、主演の[吾輩は猫である]は、天候に左右されるロケーション撮影を除いて順調に進行し、助監督達をホッ! とさせた。なんといっても、木邑監督のお小言(こごと)が減るからだ。もちろんそれはチーフだけではなく、セカンドからフォースまでの各助監督[助監]にも言えた。ただ、彼等(かれら)の目論見(もくろみ)は甘かった。それ以外に、みぃ~ちゃんのご機嫌が多分に影響したのである。みぃ~ちゃんのご機嫌が悪いと、飼い主である小鳩(おばと)婦人のご機嫌が悪くなり、木邑監督がお小言を頂戴する破目に陥(おちい)る。木邑監督が小鳩婦人のお小言を頂戴すれば木邑監督のご機嫌が悪くなり、各助監に監督のお小言が降り注ぐという三段論法だ。とはいえ、そうなるケ-スは滅多となく、みぃ~ちゃん好みの食事が出ないときに限られた。みぃ~ちゃんは食べる量こそ少ないが、大の美食家だったのである。その点から考えれば、影響は弁当手配の制作部にまで及んだとも言えた。
「こんなもの…。みぃ~ちゃんのお口に合うざまぁ~すかしら?」
 今日も、昼食休憩に入っている撮影現場で小鳩婦人のお小言が鳴り響く。セカンドと打ち合わせ中だった木邑監督は聞こえない態(てい)で婦人から遠退(とおの)いた。お小言の前の避難(ひなん)である。監督はさすがに壺を心得ていて、最近はこのスゥ~っと消えるタイミングが絶妙になっていた。


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