水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<5>

2015年04月18日 00時00分00秒 | #小説

「あらっ? みぃ~ちゃん、どこへ行ったのかしら? 嫌ざまぁ~すわ、ほほほ…」
 高貴な笑いで、小鳩(おばと)婦人は手持ちのダイヤモンドが散りばめられた扇子を見せつけるように口を押さえた。
 二匹は、すでに小鳩邸のゴージャスな大庭園を散策しながらデイトしていた。交わす言葉は、もちろん猫語である。
『ご主人が、仲を取り持ってくれるそうだよ』
『ふ~ん、そうなんだ…』
 みぃ~ちゃんは、攣(つれ)れなく返した。小次郎としては肩すかしを食らった格好である。
『人ごとみたいに…』
『だって、うちの奥様、なかなか手強(てごわ)いわよ。上手(うま)くいくかしら?』
『…まあ、そう言われれば、なんだけど。でも、うちのご主人も、アレでどうして、やるときはやられるお方だから』
『お手並み拝見ってとこね』
 みぃ~ちゃんはお嬢さま風に高級感を漂(ただよ)わせて言った。言われてみればそのとおりで、里山に任せるしかないのだ、所詮(しょせん)、僕達は猫だ…と、小次郎は目を片手でフキフキした。猫が器用に顔を拭(ふ)く例の仕草である。二匹は池に掛けられた橋の上へ腰を下ろした。青空に澄みきった空気が流れ、いい気分の二匹だった。
『僕達のことは、ご主人に任せるしかないだろう。一応、人間語で相談したんだよ…』
『そうなんだ…。確かに、人間のようにはいかないわね』
 みぃ~ちゃんは橋の上へ腰を下ろすと、軽く片手をナメナメした。小次郎も腰を下ろした。


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