「ほほほ…この辺りで、お寛(くつろ)ぎ下さいましな…。今、お茶を運ばせますわっ」
小鳩(おばと)婦人は据(す)え置かれた純金製と思われるハンドベルを優雅に数度、動かした。すると、なんとも耳触(みみざわ)りがいい高い音色が響き、奥間のドアが開いて侍女(じじょ)風の老女が現れた。
「お嬢さま、どのような…」
お嬢さま? どう見ても年老いた大きい梟(ふくろう)だろう…と里山には思え、思わず噴き出しそうになったが、必死に堪(こら)えた。
「ああ、婆や…。お茶をお出しして」
「はい、かしこまりました…」
侍女風の老女は、すぐ大広間から退出した。そのとき、里山は腕に抱いた小次郎が変な小声で鳴くのを感じた。猫も笑うのである。そこへ、一端、奥の間に消えたみぃ~ちゃんが楚々と歩いて現れた。今日の主役の再登場である。小次郎は笑いを止め、里山の腕からヒョイ! と、飛び降り、みぃ~ちゃんに近づいた。里山が予想していない小次郎の動きだった。
『シカジカなんだよ、みぃ~ちゃん』
『えっ! シカジカ? 大先生が?』
みぃ~ちゃんは、すぐ理解した。彼女は小次郎を映画の役どおり[先生]と呼び、里山は先生のご主人ということで、[大先生]と呼んでいた。
二匹は気づかれぬよう大広間を静かに出た。