水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<39>

2015年04月02日 00時00分00秒 | #小説

 みぃ~ちゃんが演じる三毛子の飼い主は二絃琴(にげんきん)の師匠である。その役を演じるのが最近、巷(ちまた)で人気が高い鈴本京香だった。どことなく男心をそそる魅惑的な容姿と演技が木邑(きむら)監督の目に止まった訳だ。その師匠が奏でる二絃琴の音が聞こえている。スタント抜きの本人の特訓だそうだが、なかなかの音色である。その音が聞こえるなか、縁側で行儀よく三毛子が座っているという場面だ。猫の自然な演技を撮りたい木邑監督は、敢(あ)えてそのシーンを[通し]でフィルムを回すらしい。初めてカチンコを握らせてもらえたのが嬉(うれ)しいのか、カメラ助手の若者がカチカチとやっている。
「やかましいっ!!」
 木邑監督の雷(カミナリ)が落ちた。朝から散々、小鳩(おばと)婦人のお小言(こごと)を頂戴したのだから、捌(は)け口を求めてそうなるのも当然といえば当然だった。
 さて、みぃ~ちゃんが演じる三毛子は正月用の新しい首輪をし、縁側に行儀よく座っている。照明が当たり、ポカポカ陽気のほどよい日射しを醸(かも)し出す。そこへ登場するのが、小次郎が演じる吾輩だ。小次郎は、監督に言われたように、生け垣のセットの向こう側から庭を覗(のぞ)きこんで様子を窺(うかが)っているという設定だ。小次郎が撮られた映像に合わせてモノローグ[独白]の音声を入れるのは現場とは別のスタジオで、日程も、すでに決まっていた。小次郎は、ジィ~~っと垣根で待機していたが、いっこうお呼びがかからない。さすがの小次郎も、シカトかい!? と、少し怒れてきた。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする