水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<48>

2015年04月11日 00時00分00秒 | #小説

「無理無理無理! 裏口から…」
 里山が玄関戸を開けようとしたとき、沙希代が待った! をかけた。
「そうだったな。ははは…、これじゃ、コンビニへも出られんな」
 里山は辛笑(にがわら)いした。だが内心では、少し有名人になったような誇(ほこ)らしい気分もあった。
 この日、仕事はなく、里山も小次郎も、のんびり過ごそう…と、それぞれ思っていた。コンビニから帰った里山が、真新しいカミソリで髭(ひげ)を剃(そ)っていると、小次郎が近づいてきた。
『今、よろしいですか?』
「… ああ、いいよ」
 里山は髭を剃りながら、鏡越しに映る足下(あしもと)の小次郎に言った。
「なんだ、そんなことか。それなら答えるが、この城は、捨てられん。なんといっても、住み心地がいいからな…」
 歴史好きな里山は、昨日観た歴史大河ドラマの一場面を思い出しながら、戦国時代的に言った。どうも、この家の暮らしやすさが気に入っているようだった。
『確かに…』
「お前も、そう思うか?」
『はい!』
 マスコミ騒ぎがなかった頃を思い返せば、この辺(あた)りは閑静でいい佇(たたず)まいの環境だった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする