水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<44>

2015年04月07日 00時00分00秒 | #小説

『いえ、気にしてませんから…』
「猫ちゃんと話せるなんて、ほほほ…、今でも信じられないです」
 ホロ酔いからか、女優、濱畑の語尾が関西弁になっていた。
「いやぁ~、飼い主の私でも、未(いま)だに…」
 里山は小次郎を助ける意味で話に分け入った。そんな打ち解けた雰囲気で完成記念の打ち上げパーティーは無事に終わった。
 映画[吾輩の猫である]が封切りされ、日本国内は申すに及ばず、世界各国から映画の問い合わせが殺到した。当然、映画は好評の域を遥かに超え、押すな押すなで怪我人が出るまでの空前絶後の大ヒット作となった。そうなれば、必然的に興業収入も莫大な額となる。映画会社を始めスタッフ、出演者などの関係者はホクホク顔だった。中でも、この映画を世に送り出した木邑(きむら)監督の名声はウナギ登りで、まるでスター扱いで、監督の周りはテレビや取材のマスコミで連日、溢(あふ)れ返った。まあ、この手の取材は監督 冥利(みょうり)に尽き、木邑監督としても悪い気はしなかった。監督は、スター気分をしばらく味わったが、さすがに連日は疲れたのか、業界の表舞台の大変さが分かった。
「小次郎君の厳(きび)しさを痛感したよ、ははは…」
『… ?』
 小次郎は里山に抱かれながら、何のことだろう? と思った。
「でしょ? マスコミ対応は大変ですよね」
 里山は木邑監督の意が通じたのか、すぐ返した。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする