水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<43>

2015年04月06日 00時00分00秒 | #小説

 映画[吾輩は猫である]は、甕(かめ)に落ちた吾輩が三毛子に助けられ、めでたく三々九度の酒[内容物は水]を小汚(こぎたな)い一枚の皿でナメナメするメデタシメデタシのラストシーンでクランクアップした。小次郎とみぃ~ちゃんは、現実にこうなれば…と思いながら演じた。こういう話は芸能人同士でもよくあるらしい…と小次郎が知るのは、随分、先のことである。
 クランクアップ後、数日して完成記念パーティが東都ホテルの鳳凰の間を貸し切り、多くの関係者が一堂に会す中、盛大に行われた。里山はこのホテルに一度、来たことがあった。テレ京の視聴率賞に輝いたときだ。あのときから里山の人生は大きく変化し始めたのだ。
「小次郎君、なかなか、よかったよ!」
 吾輩のご主人役で、苦沙弥先生を演じたお笑い漫才の富澤たけじが小次郎に語りかけた。
『いや、どうも。その節(せつ)は…』
 小次郎は急に声を掛けられたものだから、あわてて紋切り型に返していた。自分でも、その節がどの節だったか分からなかった。
「わあ! 小次郎君だっ! よかったわよっ!」
 また変なのが一人、現れた・・・と小次郎が里山の腕の中で振り向くと、そこにはワイングラスを片手にした、おさん役の女優、濱畑マリがホロ酔い顔で立っていた。
『これはこれは、濱畑さん! その節は…』
「ごめんね。ポイポイして…」
 おさん役の濱畑には撮影当初のシーンで首筋を掴(つか)まれ、ポイ捨てにされた小次郎演じる吾輩だったのだ。


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