水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<12>

2015年04月25日 00時00分00秒 | #小説

 道坂も、今や世界的に有名猫になった小次郎の本と聞き、是非にと了解してくれたのである。
「赤イレ後の最終稿です。お目を通しておいて下さい…。これ、リゲル文学賞もとれるんじゃないですか? なかなか面白いですよ。猫の書いた書物なんて、史上初めてですから…」
 文芸編集部のリゲル編集長、滝田は最終稿を捲(めく)りながら笑みを浮かべ、里山に抱かれた小次郎を見た。
「はあ、まあ…。で、いつ頃の出版に?」
「来月には出ますよ」
 滝田は自信ありげに言った。
『ご主人、間にあいますね』
 小次郎が口を開いた。
「… はっ?」
 少しして、意味が分からず、滝田は頭を傾(かし)げた。そして珍しいものでも見るかのように、里山の腕に抱かれた小次郎をシゲシゲと眺(なが)めた。
「そうだな…」
 里山は腕の小次郎を見下ろした。
「あの…どういった?」
「いやあ、勤めていた会社の部下の結婚式がありましてね。シカジカシカジカなんですよ」
「ああなるほど、シカジカシカジカですか。そりゃ、いい記念にもなりますからね」
 滝田は納得して頷(うなず)いた。


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