水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<42>

2015年04月05日 00時00分00秒 | #小説

 みぃ~ちゃんは小鳩(おばと)婦人が開けて見せた弁当の内容物を一瞥(いちべつ)しただけで、そっぽを向いた。その一部始終を里山に抱かれながら小次郎は見ていた。控室に入ってから、こんなご馳走を…と、小次郎は有り難くいただきながら、世間は様々だと恨(うら)めしく思った。
 何がどうなって、こうなるかは誰にも分からない。映画撮影が順調に進み、晴れてクランクアップが近づく頃になると、小次郎とみぃ~ちゃんは相思相愛のいい仲に急接近したのである。むろん、このことは飼い主である里山も、みぃ~ちゃんの飼い主である小鳩(おばと)婦人もまったく知らなかった。みぃ~ちゃんの気持が小鳩婦人に伝わらないのは当然だが、人間語が話せる小次郎の気持が里山に伝わらない訳がなかった。真相は、その事実を小次郎が里山に打ち明けなかったためだった。小次郎も人間で言えば立派な青年に成長し、そこはそれ、猫としての自我意識に目覚めていた訳である。実のところ、このことを小次郎は里山に話そうかどうか迷っていた。
 みぃ~ちゃんと小次郎が出会うクランクアップに近いラストシーンの撮影が現場で行われていた。木邑(きむら)監督は原作にはなかった小次郎演じる吾輩が甕(かめ)に落ちたとき、みぃ~ちゃん演じる三毛子をデフォルメして登場させたのである。三毛子は甕の中で水に落ちた吾輩を、偶然、通りかかって覗(のぞ)き込む・・という設定だ。台本では、『あら、先生。こんなところで…』となっているカットだった。


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