真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

HPは hide20.web.fc2.com
ツイッターは HAYASHISYUNREI

日本の阿片政策と日本非難の国際世論

2011年06月03日 | 国際・政治
阿片問題の前に
 またしても、あなたは「なぜ日本ばかり批判するのですか?」との批判をいただいた。でも、私は日本を批判しているのではなく、過去の歴史的事実を素直に認め、そこから出発したいだけである。
 敗戦が濃厚になると、日本が組織をあげて軍関係の文書の焼却や様々な証拠物件の湮滅に力を注いだことはよく知られている。にもかかわらず、そうした事実を伏せ、隠蔽された歴史的事実については、何も調べたり研究したりすることなく、歴史を語ろうとする動きを、私は座視できない。
 「子供たちが日本人としての自信と責任を持つことのできるような教科書をつくる」という主張に異論はないが、そのために歴史の一面だけをみたり、真実を隠したりしてはならないと思うのである。

 また、先頃、「日本は19世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めることになるが相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない」と公言したり「廬溝橋の仕掛け人は中国共産党」などと主張する田母神俊雄なる人物が、航空自衛官の最高位の(第29代)航空幕僚長であった現実に衝撃を受けた。地道な調査や事実の検証、科学的分析などに基づいて築き上げられてきた史論を無視し、目先の利益のために歴史を詐るような人間が、航空自衛官の責任ある地位にあったことに驚くとともに、正しい歴史認識の重要性を思い知らされたのである。そこで日本の過去の”あやまち”に目をつぶり、先の戦争を正当化するような動きに抗して、あまり知られていない歴史的事実などをも詳しく学びながら、様々な書籍からその重要部分を抜粋し、アップロードすることにしたのである。

阿片問題について
 いちはやく、国家の財源確保のために阿片を利用したのはイギリスであり、イギリスが持ち込む大量の阿片の流入を阻止しようとした清国との間に、「アヘン戦争」(1840年)が勃発したことは、世界史を学んだ日本人には常識となっている。そして、アヘン戦争に勝利したイギリスが、南京条約によって香港の割譲や軍費の賠償、その他様々な利権を得たことが、理不尽極まりない帝国主義的行為であったことを否定する者は、もはやいないだろうと思う。
 その後、中国におけるアヘンの使用が拡大していった結果、いろいろな社会問題が発生し、1900年代に入ると阿片問題に対する国際的な取り組みを求める声が高まっていく。そして、万国阿片委員会( International Opium Commission ) が開催され、1912年にオランダのハーグにおいて「ハーグ阿片条約」が調印されるに至るのである。
 ところが、日本が財源確保のために阿片を利用するようになるのは、この国際条約調印後のことである。したがって、イギリスとはちがい、日本の場合は、国際条約違反のかたちで阿片を利用せざるを得なかったために、表向きには「漸禁政策」をかかげつつ、裏で大量の阿片取り引きをしたのである。それは、特務機関などを利用して巧妙に行われた。したがって、阿片に関する公文書などは、表向きのもの以外はほとんど残されていない。だから、日本人の多くは「アヘン戦争」は知っていても、日本の「阿片政策」については、ほとんど知らないというのが実態ではないかと思う。

 下記は、阿片問題に関して、日本が世界各国の非難の的になっていたと論じている部分を「続・現代史資料(12)阿片問題」(みすず書房)から抜粋したものである。下段は、同書の「外務省関係電報および文書」の28に入っているもので、日本の阿片取り引きがアフリカにまで手をのばしつつあったことが「”アフリカ”ヨ用心セヨ」で分かる。
----------------------------------
解説より(xxxi~xxxii)

 
・・・
 日本は1930(昭和5)年以後、先進国の中で唯一の”阿片の悪者”の国とされていた。ジュネーブにある国際聯盟の阿片委員会では、中国を筆頭とする、英、仏などから常時非難されている国であった。また東京裁判の里見甫を裁いた法廷に提出された多くの検察側の証拠文書には、満州事変前の1936年5月9日付「在上海アメリカ財務官の報告」をはじめ、アメリカ大使館、在済南アメリカ領事の報告など詳細をきわめた日本の中国での阿片政策の実情がのべられている。坂田組の活動や、「大北京の『ヘロイン』業の『親分』としての二人の支那人」の報告(1941年3月19日附上海駐在アメリカ財務官報告)には、劉と常という二人の親分の所行を説明し、さらに「日本領事警察ハ『ヘロイン』商売ヲナス日本人又ハ朝鮮人ヲ保護スルト云ハレテイマス……」と、2人の親分と日本領事館の関連までのべている。


 日本はジュネーブの国際聯盟により、また中国ではアメリカなどの外交官から調査、監視を受けていた。在中国のアメリカ大使館などの阿片に関する報告は、アメリカの新聞で報道された。このような状況で日本の外交官は、任地が中国なら、まさに国策に従って中国での阿片確保の任務を遂行し、任地がアメリカになると、アメリカを始めとする国際世論の日本非難の防遏(ボウアツ)に懸命にならざるを得ない。しかしなんといっても、国策遂行に従事する在外各地の公使、総領事、領事の活動は、はじめて知ることのできる事実である。

 また58電は楠本実隆大佐、根本博大佐(のち中将、この時は北支那方面軍特務部総務課長)の行動が、外務大臣に報告されている。このように外務電は所管外交事項のみならず、陸軍がいかに阿片に関与していたかを示し、一方イランの阿片輸入をめぐり、あくまで利益追求に徹する三井物産、三菱商事の”商人ぶり”と(52,55電)あいまって、阿片の入手、確保に日本が官も民も、うって一丸となって狂奔していたかがうかがえる。
 第2部25の打合会議で、「本年1000箱手ニ入レタルモアト見込ナシ、イラン、アト500箱ノミシカ輸出シエナイ」云々とあるが、(309頁)この間の消息は外交電の166,167,170が示している。
 興亜院や中国の各連絡部という阿片政策の第一線に従事する官庁と外務省が連動して、日本史上未曾有の量の阿片を取り扱った時代を物語る資料である。

 ・・・(以下略)
----------------------------------
             外務省関係電報および文書

28(p506)

 国際的疑惑ノ焦点ニ立ツ日本ノ「麻薬」取引ニ就テ
   聯盟総会ニ於テ頒布サレタ怪文書
                              内務省衛生局  保見吉亮
 寿府ニ於テ、排日的色彩濃厚ナリト定評ノアルブランコ氏経営ノアンチ、オピウム、インフホーメーション、ビューローニ於テ作成ノ上昨秋ノ国際聯盟総会ニ出席ノ各国代表部ニ配ラレタト云フ「支那ニ於ケル麻薬ノ実状ヲ語ル」トデモ云フ小冊子ガ最近外務省ヨリ送付サレタ、小冊子ノ内容ハ4ツノ項目即チ
1、支那ニ於ケル麻薬ノ害毒
2、日本人ノ薬品貿易ガ北支那ヲ蠧毒ス
3、上海ニ於ケル英国阿片結社ノ反響
4、”アフリカ”ヨ用心セヨ
ヨリ成テ居リ


 ・・・
 (4) 結論
  △「新シイ教示ニ就テ」
支那人ハ平和ヲ好ム国民デアル、彼等ノ国民性ハ外来者ヲ容易ク受入レ、ソシテ智識ヲ求ムル性質カラ外国人ノ教ヲ速ニ採用スル、之ガ何故斯カル行商人ガ彼等ヲ害毒吸煙ニ転向セシムル事ガ成功シタルカノ理由デアル

北支ノ殆ンド全部ノヘロインハ天津、青島ヲ経、大連ヨリ密輸セラレタ、最モ信ゼラレル報告ニ依レバ日本人ハ数所ノ工場ヲ大連ニ置キ毎月支那ヘ数百万ダラーニ相当スルヘロインヲ販売シツツアリト云フ、ヘロインハ阿片ヨリ作用ハ劇烈デ一度習癖ヅケラレタ人間ハ之ヲ停止セシムルコトハ甚ダ困難デアル、小生ハ幾多ノ本薬品ノ癮者カラ聞イタ所デハヘロインヲ使用シテ5年以上生キタ人ノアルヲ聞キシコトガナイ、私ノ遭ツタ之等ノ不幸ナ人々ハ総ベテ其習慣ヲ日本人及鮮人ニ教示サレ、供給ハ全部日本人又ハ鮮人ヨリ得タルトノコトデアル、彼等ハ何レモ若シ逃レ得レバ是レヲ止メタイトノ切実ナル願ヲ持ツテヰル、或ル吸煙所デハ親子2人デ此ノニッポンノ毒ヲ吸ツテヰルノヲ見タ、天津ニ於テ小生ハ或ル男ガ13歳ノ児童ニヘロイン煙草ヲ吸ハセテ居ルノヲ見タ、各階級各職業ノ婦人及ビ子供ガ此吸烟所ノ観客トナル、小生ハ幾多ノ美シイ、イイナリヲシタ15歳前後ノ支那娘ガヘロインヲ吸ツテ居ルノヲ見タ、彼等ハ一月前習癖ニ陥ツタコトヲ小生ニ述ベタ
彼等ハ何レモ青ク神経質デアツタ、内2人ノ女子ハ近々2時間以内ニヘロイン3瓦(グラム)以上ヲ使用セリ


  △「”アフリカ”ヨ用心セヨ」
1924-1925ゼネバ阿片会議ニ於テ日本代表杉村(陽太郎)氏ハ若シ日本ガ古来外国ニ征服サレナカツタ亜細亜ニ於ケル唯一国ナリトセバ之ハ日本ガ阿片吸煙及麻薬摂取ヲ絶対シナタツタ為デアルト声明シタ、本声明ハ日本ハ麻薬ガ政治上危険デアルコトヲ知ツテヰタコトヲ示スモノデアル、東洋ニ於ケル日本ノ政策ハ日本ガ致命的武器ノ利用法ヲ知ツテ居ル証左デアル、台湾、朝鮮、満州国ノ専売法ハ日本ノ力ニヨツテ出来タモノデアル、支那人ハ組織的ニ日本人ニ害ハレツツアリ

今ヤ日本ハアフリカニ目ヲ注ギツツアル事ガ報ゼラレル、次ノ一文ハ1933年9月21日ノロンドンデリー、ヘラルドカラ抜載サレタモノデアル
「日本ハアフリカニ足場ヲ獲得、移民之ヲ以テ来潮セン」(東京金曜日発)日本ハ移民地トシ新市場トシテアフリカニ於ケル独立国タル最後ノ大帝国タルアビシニア(エチオピア)ニ土地ヲ獲タ、1年前日本ノ使節ガ日本人ノハケ口ヲ求メ彼等ノ貨物ノ為メ、新市場ヲオクベクアビシニアニ行ツタ、今日ニ於イテハ日本ノ新聞該使節ノ成功ニ就キ詳細ヲ報告シテヰル

此ニュースハ英国、仏国及ビ伊太利ヲ心配サセルデアラウ、アビシニアハ前記三国ガ有スル広大ナル権益間ノ緩衝地帯デアリ且同国内ニ於テモ之等三国ハ各広大ナル勢力範囲ヲ有シテ居ルカラデアル、

日本ハ今ヤ之等ノ三ケ国ニ向ツテ挑戦シタ、日本使節ハエチオピア帝国大皇帝ラス・タハリ(ハレイ・セラシュ1世)陛下ヨリ綿ノ栽培ニ適セル豊穣ナ土地160万エーカー払下ノ許可ヲ得タト伝ヘラル、ノミナラズ日本ハエチオピアニ於テ罌粟栽培ノ独占権ヲ獲タトノ事デアル、右ノ土地ニ日本人ヲ送ルタメ移民機関ヲ作ラントシツツアリテ間モナク日本人ノ群ガ西ニ移動スルデアラウ、日本人ノ商人ハ其生産物ノ為メニ新市場ヲ開クニ困難ヲ感ゼズ、即チ日本人商人ハ官憲護送ノ下ニ国内ニ其ノ商品ヲ売リ廻リ重ネテ次ノ注文ヲ取リツツアル         ー(完)


http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は、段落全体の省略を、「……」は、文の一部省略を示します。  

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「阿片王」里見甫(里見機関... | トップ | 日中戦争の秘密兵器=麻薬 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (わさびだ)
2024-05-12 17:29:20
非常に興味深く拝読しました。日本人の過去の所業について、我々はもっと知るべきです。知れば知るほど、戦争は絶対にすべきではないと、重ね重ね思います。
返信する
コメントありがとうございます (syasya61)
2024-05-12 22:57:42
わさびだ様

 公職追放解除とレッドパージによる一部政治家の排除が、現在の日本の政治につながっていることを実感するこのごろです。
返信する

コメントを投稿

国際・政治」カテゴリの最新記事