マガジンひとり(ご訪問ありがとうございます。年内に閉鎖を予定しています)

書肆マガジンひとりとしての小規模な同人活動を継続します。

世界の音楽 — フィリピン

2024-02-14 18:26:44 | 世界の音楽
ランズデールが考案した「心理作戦」の別のものでは、フィリピンの田舎で信じられていたアスワングという神話上の吸血鬼が利用された。政府軍が、フク団の占拠しているある場所を取り返したいとする。すると、心理戦部隊が近くの町に入り、フク団が潜伏している山岳地域にはアスワングが住んでいるとの噂を流す。町のフク団シンパにこの噂が浸透しそれが山にも伝わるのを待って、2日ほどしたら、部隊はフク団が通る道で待ち伏せ攻撃をしかける。フク団の斥候が通り過ぎるのを確認して、気がつかれないようにして最後の一人を捕まえる。そしてこの兵士の首に吸血鬼に襲われたかのように穴を二つ開け、血が抜けるまで逆さに吊るしておくのである。血が抜けると遺体を道に置いておく。他のフイリピン人と同じくらい迷信深いフク団がこの血を吸われた仲間を発見すれば、この部隊はこの地から逃げ出していってくれるのである。 ─(ウィリアム・ブルム『アメリカ侵略全史』の項目「フィリピン アメリカの最も古い植民地」より)



Rogelio de la Rosa / Dahil Sa Iyo (Because of You) (1938)
フィリピンの伝統的な音楽は、同国が地方それぞれ別の言語を持つことや、100年にわたるアメリカナイゼーションのため受け継がれることが難しくなっている。そんなアメリカ化を象徴する甘いメロディーを持つこの曲は在米フィリピン人コミュニティーで今も人気があり、贅沢な生活ぶりで知られるイメルダ・マルコス元大統領夫人のお気に入りでもあるという。
※ジャケは1964年に米国でリリースされたカバー・バージョンのシングル



Freddie Aguilar / Anak (1977)
フレディ・アギラーはフィリピンのミュージシャンとして最も世界的に高名な存在。成長して悪い道へ進もうとする息子へ呼びかける内容のAnakは同国のコンクールで優勝後に大ヒット、やがて日本・香港・マレーシア・ヨーロッパの一部などでもヒットし、訳詩を付けてのカバーも盛んに行われた(日本では杉田二郎のカバーが原曲を上回るヒットに)。音楽的には米英のフォークロックの影響を受けつつ自国の伝統精神を音楽で受け継ごうとするピノイロックの系統に属し、貧困のため売春せざるをえない少女、ミンダナオ島におけるキリスト教とイスラム教の衝突など社会的政治的テーマにも取り組んだ。80年代にはマルコス政権に対する抗議の一環として独立闘争時代に作られた愛国歌Bayan Koを集会などで歌い、1986年のピープルパワー革命に至る機運を高める。

Anakが日本でヒットした翌年、共通するテーマながら死ぬほど気持ち悪い歌詞のさだまさし「親父の一番長い日」が12インチシングルとして異例のオリコン1位。ザ・ベストテンの始まった70年代終り、文化的経済的没落の因子は日本のあちこちに見られるようになっていた。言語化できた人は誰もいなかったが。



CLIPPER / BOY (1978)
女1男4の姉弟グループとして活動していたのを日本に呼び寄せ、都倉俊一作曲で長男デニスのボーイソプラノが美しいこの曲などシングル4作・アルバム1作をリリース。BOYは都倉のユニット「ウインズ」としてセルフカバーも。



Jose Mari Chan / Beautiful Girl (1989)



Eraserheads / Ang Huling El Bimbo (1995)



Christian Bautista / The Way You Look at Me (2004)



Jennylyn Mercado / Sa Aking Panaginip (2005)
同国のトップ女優で歌手としても活躍。トライアスロンや格闘技をたしなみ、子どもの頃の被虐待経験から女性の権利や反暴力についても積極的に発言。



Charice / Pyramid (feat. Iyaz) (2010)



Up Dharma Down / Tadhana (2012)
現状同国で最も人気のあるオルタナティブ系のポップグループ。この代表曲はSpotify再生回数が2億超となっており、韓国のK-popがそうであるように、1980~90年代のソウル・ヒップホップ・ディーバ系・シンセポップ・日本のシティポップなどの要素を公約数的に集めたレトロかつ凡庸(※必須条件)な曲であることが、教育や消費やインターネットを通じて分断と囲い込みが完了してしまったポストモダンにおけるヒットの公式なのではないか。



Juan Karlos / Buwan (2018)
これも1億5千万回と聞かれているが、前項のような東アジア的なマーケティングというよりは北米のインディーロックに近い作風。


コメント