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帰ってきたサンプラー #3 ─ 帝国主義

2022-07-10 18:32:20 | 音楽
ただ、共通性もあるが違いが大きいのは事実だ。例えば同じスペイン語国だと言ってもメキシコの音楽とキューバの音楽はずいぶん違っていて、それはキューバに黒人が多くてメキシコに黒人がほとんどいないというのが最大の原因なのだが、キューバとジャマイカとハイチは、距離的にもすぐ近く、黒人の存在という点でも共通する(黒人の比率にはかなり差はあるが)にもかかわらず、音楽はずいぶん感じが違う。人ロの中で黒人の占める比率の違いが音楽に表われた、ということもあろうが、スペイン系、イギリス系、フランス系という歴史的背景の違いが、音楽をいちばん大きく左右したように思える。
それは、文化の違いが直接的に音楽に表われたということ以上に、植民地としての歴史の違い、社会的背景の違いが、音楽の発展のし方に出ているという気がする。キューバが19世紀から独自の混血音楽を次々に育てたのに対して、ジャマイカでは60年代にスカが出てくるまでジャマイカ独自のポピュラー音楽はまったく未発達のまま停滞した。キューバとくらべ1世紀も遅れたわけだ。独立そのものがキューバは20世紀初頭、ジャマイカは第2次大戦後だが、独立の差が半世紀なのに音楽の遅れが1世紀にもなったのには、イギリスがジャマイカという植民地をどう扱って来たかが大いに関係している。ジャマイカでの17~18世紀の黒人奴隷を使っての砂糖生産の実態に関しては『アフリカの音が聞こえてくる』32ページ以下に書いたから重複を避けるが、キューバでのスペインの植民地支配が厳しくなかったことと音楽の発展のし方との結びつき、そしてその反対に極度に黒人を抑圧したジャマイカでの音楽の低発展を考えるにつけ、社会的背景がいかに大きく音楽を左右するか、カリブ海の音楽は如実にそれを示している。
ハワード・ジョンスン&ジム・パインズ共著のレゲエの本から《イギリス人の農場経営者たちは、奴隷から最大限の労働を引き出すことだけしか考えていなかった。ジャマイカは一個の大きな工場であり、奴隷たちはそこに備えつけられた機械だった》ウンヌンという言葉を、ぼくは『アフリカの音が聞こえてくる』で紹介した。その少し前のほうには『コロンブスからカストロまで』から《18世紀の経済にとって砂糖は、19世紀経済における鉄鋼や20世紀経済における石油にも似た位置を占めていた》というウィリアムズ(トリニダード出身の黒人の経済学者でのち同国首相)の言葉も引用した。つまり、世界経済の基幹であった砂糖生産が、ジャマイカの〝人間機械工場〟で行なわれていたわけだ。
それが何を意味するか、石塚さんの右の序章は『甘さと権力』(平凡社)のシドニー・ミンツや『ブラック・ジャコバン』(大村書店)のシリル・ジェイムズを引用しつつ、《カリブ海の島々が、近代世界システムの〝最初の周辺〟地域化した》《奴隷制プランテーションが中核=ヨーロッパに先行する資本主義的生産組織だとすれば…》というふうに言っている(同書18、20ページ)。つまり、少々無遠慮に端的なまとめ方をしてしまえば、世界経済の〝周縁〟であるカリブの島々は〝中心〟のヨーロッパにむしろ先行して近代的な資本主義生産方式を押しつけられ、ヨーロッパはその成果を吸い取りながら自身の近代化をなしとげて、世界制覇を強化し、カリブの島々のさらなる収奪を続けて行った、ということだ。これは、ポ ビュラー音楽は中心で発生して周縁に伝わって行ったのでなく、むしろインドネシアやラテン・アメリカなどの周縁でポピュラー音楽が先に芽生え、中心はそこから養分を汲み上げながらそれを商品化して利益を得て来たに過ぎない、というぼくの『大衆音楽の真実』の基本テーゼを、社会経済史のほうから裏づけるものだと言える。 ─(中村とうよう/カリブ音楽の海底にひそむもの/ミュージック・マガジン増刊『なんだかんだでルンバにマンボ』1992、より)

先に、イギリス史における囲い込みの猛威と産業革命後の社会的破綻とを、対比させて議論したことが想起される。そこでわれわれは、進歩というものは概して社会的混乱という代価によってあがなわれるものであると述べた。もしも混乱の程度があまりに大きなものであるならば、社会(コミュニティ)は混乱のために滅びてしまうにちがいない。テューダー朝およびステュアート朝初期のイギリスは、変化を何とか耐えられるものとし、またその破壊的な影響力をできるだけ抑えることによって、自国をスペインがたどった運命から救うことができた。しかし、何ものもイギリスの民衆を産業革命の衝撃から救うことはできなかった。自然成長的な進歩への盲目的な信頼が人々の心をつかみ、もっとも賢明な人々でさえ無統制で際限のない社会変化を求め、宗教的な熱狂をもって突き進んだ。人々の生活に与えた影響は、筆舌に尽くしがたいほどすさまじいものであった。実際、この自己破壊的メカニズムの切れ味を鈍らせるような防衛的な対抗運動がなかったならば、人間社会は破滅してしまっていたことだろう。
かくして19世紀における社会の歴史は、二重の運動(ダブル・ムーヴメント)の結果であった。すなわち、本来的商品に関する市場組織の拡大は、擬制商品(労働・土地・貨幣)に関してそれを制限しようとする動きをともなったのである。一方において、市場は世界中のいたる所に広がり、市場が扱う財の総量は信じがたいほどの大きさにまで増大したが、他方において、対抗運動のためのさまざまな手段や政策のネットワークは統合され、労働、土地、貨幣に関する市場の動きを抑えるための強力な諸制度となった。 ─(カール・ポラニー/大転換/東洋経済新報社2009・原著1944、より)




英ロンドン出身のクリス・ブラックウェルはアイランド・レコードを設立してレゲエを世界に広めた功労者。母はジャマイカに先祖を持つユダヤ人で、彼自身も幼少期と青年時代に独立前のジャマイカに住み、1959年に当地で起こしたアイランドを、64年のスカ初ヒットMy Boy Lollipopを皮切りにフェアポート・コンヴェンション、トラフィック、ボブ・マーリー、U2などを擁する世界的レコード会社に育てた。



航空産業や宇宙旅行事業まで手がけるコングロマリット「ヴァージン・グループ」を一代で築いたリチャード・ブランソンは英国の気風と新自由主義を体現する風雲児である。ロンドン郊外のアッパーミドル家庭に生まれ、学習障害の気があってパブリック・スクールを中退、趣味で始めた中古レコードの通信販売で成功し、プログレやドイツのロックを扱うヴァージン・レコードを1973年に創業。大手レーベルに難色を示されていたセックス・ピストルズを迎えて以降は流行色を強め、80年代のブリティッシュ・インベイジョン再来にも乗じて飛躍、スピーディーに航空など異業種進出を果たした。


英EMIクラシックスはそれ自体がエンジェル・オデオン・ヒズマスターズヴォイス(HMV)といった旧レーベルを統合したものであったが、2012年にユニバーサルミュージックがEMIを買収し、クラシックスはワーナーミュージックグループのクラシック部門に丸ごと移管されることに。膨大なカタログがあり、定評あるシリーズものが多く、右側のようにロゴを入れ替えるだけの場合、左上のように元のデザインを台無しにしてしまう場合、左下のように最初のリリース時のジャケを復活させる場合などあるようだ。私は新たに買ってもEMIのジャケに入れ替えているが、ケースバイケースでワーナー版を生かす場合も。



ドイツのソニーBMGミュージックが2003年からさまざまなテーマで手がけるポピュラー音楽の2枚組コンピ盤シリーズ。80年代にEMIとヴァージンが組んで最新ヒット曲を集めたNOWシリーズが成功して英国から各国に波及、大手レコード会社の再編も進んで贅沢な選曲のコンピ盤が盛んにリリースされるように。


今のところ私のiTunesにおけるコンピ盤の合従連衡ゲームは英ロンドンのナイトクラブが発祥のレーベルMinistry of Soundが暫定王者となっている。一つのスーパーパワーがすべてを支配する時代ではない。グーグル・アマゾン・アップルは表向き連携してはいないが人生の時間を隷属させる利益を分け合っている。「サウンド省」という命名(1991年)はそんな時代を先取りしていたといえよう。



灰野敬二・カトゥラトゥラーナなど日本のインディー音源を集めた米コンピ盤(1985)。自動車・テレビ・カメラ・時計・ウォークマンなど日本の工業製品が世界を席巻、貿易と財政、双子の赤字に業を煮やすアメリカを助けるため、先進5ヵ国は「プラザ合意」によりドル安円高に誘導、ドル円は1年で230⇒150円台と急降下、急に大金持たされたようなもので株や不動産への投資が過熱、バブル景気とその収拾失敗による失われた30年を招くことに。

日本語の情報に触れていると気が狂う。歌詞が直接入ってこない海外の音楽、あるいは歌のない演奏だけのクラシックなどに常時触れていなければ死んでしまう。本来この記事は7月8日(金)にアップしようと準備していましたが、安倍元首相暗殺により中断、きょうまとめることになりました。腐りきった日本メディアがますます安倍を神格化し、参院選では与党大勝、おそらく改憲までいくでしょう。一方、これまで伝わるところによれば暗殺犯は統一教会に家庭を壊された元自衛官、銃も自作。外国要人の目もあるし、安倍の側近や高市ら極右リーダー候補たちもビビッてしまってまとめ役不在、オリンピック開会式やボーッと突っ立って暗殺を許したSPのようにグダグダになる。戦争に付き合ってくれる国はないしミャンマー化(軍隊が国民を殺す)もない。オウム事件といい原発事故といいまったく懲りない、30年時間の止まったバカの国として白眼視され、経済的には侮られ、財政破綻はありそう。怒る国民に改悪憲法が牙をむく。そこは備えてください。Welcome to Nightmareland…
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