マガジンひとり

自分なりの記録

読書メーター #8 — 時間、ほか

2018-06-17 20:15:55 | 読書
かつてガキの使いを見ていて、ダウンタウンの2人のトークで、携帯電話がほぼ行き渡った頃だったのか、街中で無断で写真を撮られてしまったことが分ったとき、浜田は猛然と問い詰めて、消去させるっていうんだよね。こちらは顔も名前も知られていて、素姓の分らない相手に対し、恐くないんかい?のように松本が疑問を呈すと、浜田は「時間はたっぷりあるがな」と。

どう出るか分らない相手に対しても、時間をかけて優位に運び、最後は必ず勝つという、ケンカ慣れした者ならではの自信。松本の才能だけでなく、浜田のこうした世間知もまた、ダウンタウンがお笑いの天下を取るのに寄与したのだろう—




デビッド・ボウイの100冊という企画があり、何冊か未知の本を入手してみた中で、画家ベーコンのインタビュー集はハズレの部類で、すぐに手放してしまったが、そこはボウイ、印象に残っているのが、老境のベーコン氏は毎朝「きょうも目覚めた。また新たな一日を生きられる」と喜び、彼にとって最高の贅沢はギャンブルの偶然性なのだという。

修羅場でも動じない、ダウンタウン浜田の現実的な強さと相通ずるような気が。会社員は決まりきった面白くもない賃労働だが、安定している。とくに大企業なら、秩序に従っていれば、会社から守ってもらえるし、いずれは秩序の上層へ上るチャンスも。こうした毎日に身を委ね、適度にガス抜きしつつ真面目に勤め上げる者が大半なのでしょうが、老後不安などを煽られ、欲や見栄もあって、不動産投資などに安易に手を出してしまうと、不動産屋なんていうのは色と金がすべて、ブラック企業の打たれ強い高卒中卒営業マンにとって絶好のカモに。

ウシジマくんの風俗編に、「他の業者から名簿を盗ってきたら辞めさせてもらえる」みたいなヤミ金の若者が出てきますが、いったん不動産投資の連中に住所や電話番号を知られてしまったら、投資しないまでも後々厄介でしょうね—



一発屋芸人列伝
山田ルイ53世
新潮社

山田ルイ53世/一発屋芸人列伝/新潮社2018
少々ウルサイ文章である。情報の盛り込み方や慣用表現の選び方が小ざかしい感じ。「些か」とか漢字で書く必要性が分らない。しかしそれぞれ一度は大きな花を咲かせた芸人さんたちへの称賛や嫉妬や皮肉のない交ぜとなった筆致は同業者ならでは。コウメ太夫やキンタローのチャプターなど奇人伝としても楽しめるし、ムーディ勝山と天津木村のねじれたライバル関係も興味深い。ロンハーのちょい古1グランプリでやり切った達成感を漂わせる彼らはかっこよかったな。とはいえ最後まで文章のウルサさと、掲載誌が新潮社の最ウヨ雑誌であることも気になった


ぼくが愛するロック名盤240 (講談社+α文庫)
ピーター・バラカン
講談社

ピーター・バラカン/ぼくが愛するロック名盤240 /講談社+α文庫1998
この人は日本に来ていなければ社会問題はもちろん音楽についてメディア上で語れる立場になってないです。ジャーナリストとしての実力はない。白人崇拝の日本でのみ通用する外タレ。本書の選盤にそれがよく表れている。来日以降、新しくなるほど盤の数が極端に減る。勉強して探していないのだ。同じ英国出身のD・アトキンソンが指摘する「日本の労働者は優秀だが経営者は奇跡的な無能」の傍証。そのアトキンソンもバラカン化=いつも同じポジショントークで構造そのものには触らない=しており救いがない(;´Д`)


さよなら未来――エディターズ・クロニクル 2010-2017
若林 恵
岩波書店

若林恵/さよなら未来―エディターズ・クロニクル 2010-2017/岩波書店2018
ナナメ読み。きのうロンハーの千鳥特集でノブは「有吉さん項目が多すぎるっていう顔してる」と。本書も、専門分野を持たない「編集者」が人工知能やポスト真実、健康ツーリズムや仮想通貨などなど、広く浅く知ったかぶる。日本の旧メディアにありがちな、進んだ欧米の文化やビジネスを、ぼくがまとめて無知な君たちに教えてあげようという受け売り。デビッド・ボウイやプリンスは勇敢だった。それはもちろんだが、こんなあちこちに保険を打って業界内をキョロキョロ御用伺いしている奴から音楽を教わるのはまっぴらごめん。WEB記事で十分。即処分


無銭経済宣言――お金を使わずに生きる方法
吉田奈緒子
紀伊國屋書店

マーク・ボイル/無銭経済宣言―お金を使わずに生きる方法/紀伊國屋書店2017
壮大な空論。著者の語る贈与経済・ローカル経済をフェアな形で(安倍が加計や経団連に贈与するような不潔な形でなく)実現するためには既存の貨幣経済のシステム=株式会社や賃労働や貿易やグローバル経済の大半を壊す必要があるが、その現実的な道筋は語られない。環境問題などでそれしかないと説くだけの哲学まがいに終始。著者だけでなく、類似のphaや鶴見済も、特殊能力者で既存のシステムでも勝ち組になれる者が、新興宗教のようにシステムに異議を唱え、少数の信仰を得られれば一部の関係者だけはとりあえず潤うという意味での空論


時間 (講談社文芸文庫)
高橋 英夫
講談社

吉田健一/時間/講談社文芸文庫1998、原著1976
ツイッターはバカ発見器と呼ばれているが、ネトウヨ&メンヘラ製造マシンでもある。ウヨ化しないとしても、必死にキャラを立てて切り売りするよう仕向ける。そのままでは何も生まない時間の断片をかき集め、結びつけて、ツイッター社はあまり儲からないようだが、米国のIT企業が人間を燃料として利益を最大化できるよう貢献。こうした現実に対し、本書で語られる時間の相対性であるとか現在の価値であるとか、詩的に過ぎて無力である。やや衒学ながら決して独善的ではない文体なので趣味的に楽しめると思うが、尊厳の回復にまで寄与するかどうか


B-CAS 事故 '8674422' 2012年テレビ視聴制限崩壊の真実 (示現舎ノンフィクション)
鳥取ループ
示現舎

鳥取ループ/B-CAS 事故 '8674422' 2012年テレビ視聴制限崩壊の真実/示現舎ノンフィクション2013
自ブログの訪問数やピクシブを通じて同人誌を販売できるBOOTHの売れ行きなどで、既存メディアからインターネットへの劇的な権力移行がいまなお進行中だと分る。麻生太郎はアホウだが「企業や国はストックで潰れるのでなくフローで潰れる」との発言は正しい。資金繰りに追われると、財産があっても二束三文でムシリ取られる破目に。本書で描かれる、少数のB-CAS役人が巨大なテレビ人口を制御できず、台湾の業者は別として誰も得をしないまま中央集権のテレビ商売が崩壊・空洞化してゆくさま。ストック(国民)でフローを生めないバカ殿政府


拝啓、本が売れません
額賀 澪
ベストセラーズ

額賀澪/拝啓、本が売れません/ベストセラーズ2018
ナナメ読み。本が好きというより自分が好きな人なのかな。基本的な文章力・人間力が不足。ゆとり世代を自称し、出版社などの対人関係やマーケティングを常に意識しながらフワフワプカプカ浮き沈み。なので人名がたくさん出てきます。実名とイニシャルトークと混在でウンザリ。こんな人たちが作った小説を読みたいわけがない。出版不況は生産年齢人口の減少と既得権益温存を主因とする構造的なスパイラルであり、構造そのものへの懐疑や打ち破ろうとする気概がないような本にお金と時間を使いたくありません!


国道16号線スタディーズ
塚田 修一,西田 善行
青弓社

塚田修一&西田善行/国道16号線スタディーズ/青弓社2018
闇金ウシジマくんの、私が愛するフリーター編を扱ったチャプターがあるとのことで入手。このチャプターはやや期待外れ。ウシジマくんの良さは情報密度というより含蓄で、何度でも発見があるのに対し、説明・解釈に堕してしまって興ざめ。ナナメ読みですが他のチャプターも学生のフィールドワークというかツーリズムというか、生煮えのまま投げ出されている印象。16号線が通る埼玉・神奈川・千葉の交通量の多さ、米軍と自衛隊のプレゼンス、ブックオフは相模原が発祥であること、それらから何らか新しい文明が生まれてきそうな気がまったくしない


マンガ 株で調子に乗って失敗しました。
深蔵
イースト・プレス

深蔵/マンガ 株で調子に乗って失敗しました。/イースト・プレス2018
ウヨ系YouTuberたちが差別・ヘイトまみれなことを理由に続々とアカウント凍結された騒動(通報する者たちもネットの愉快犯みたいな連中)においてその後いくつかのアカウントが仮想通貨への投資を煽る動画投稿に転身したことで思想のないビジネスネトウヨであることが明らかに。この種の動画を見る人びとはお金よりも心が貧しいので、空虚な時間を愛国心であったりFX・仮想通貨・ソシャゲのガチャなどで埋めるのだろう。本書も失敗談と謳っているので見てみたが、株の売り買いは楽しいですよという初心者向け広告漫画。紙がもったいない


全面改訂 ほったらかし投資術 (朝日新書)
山崎 元,水瀬ケンイチ
朝日新聞出版

山崎元&水瀬ケンイチ/全面改訂 ほったらかし投資術/朝日新書2015
結論が出ている。資産をいくつかに分け、リスク資金は国内と海外のインデックスファンドに半分ずつ。積立で買い増すが基本ほったらかし。また口座を持つのにネット証券を勧める理由として「銀行員・証券マン・生保レディ、いずれも侮ることのできない、個人資産の敵」と断言しているのが良い。実際、かぼちゃの馬車の破綻などで話題の不動産投資では、業者も銀行もブロガーとかの先輩大家もみな暗に連携して初心者を騙して食いものにしてたんですよね。山崎元氏は別のネット記事でスルガ銀行の不正融資が日本版サブプライム問題に発展するかもと指摘
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