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旧作探訪#58 『リアリティ・バイツ』

2009-05-17 21:09:51 | 映画(レンタルその他)
Reality Bites@レンタル, ベン・スティラー監督(1994年アメリカ)
すべてが出揃ってしまった1990年代、あらゆる選択肢の中で自らのアイデンティティを手探りする若者たち。過去の世代に反発しながらも自分たちの答えを見つけることができない、そんな彼らの偽りのない姿を刻み込んだ《ジェネレーションX》青春映画。大学生活から社会へ第一歩を踏み出す4人の男女が直面する、それぞれの《リアリティ・バイツ=現実は噛み付く》。その中で、真剣になれる恋を探る等身大のラブ・ストーリーが展開し、ザ・ナックの「マイ・シャローナ」やリサ・ローブの「ステイ」など音楽の巧みな使われ方も共感を呼んだ。
TV局に就職してADを務め、いつか自分たち世代を表現したドキュメンタリーを創りたいと考えるリレイナ(ウィノナ・ライダー)。頭がいいが大学を中退してバンド活動をしているトロイ(イーサン・ホーク)。GAPで地道に働くいっぽうAIDS感染の恐怖におびえるヴィッキー(ジャニーン・ガラファロー)。ゲイである自分と両親との関係が心配なサミー(スティーヴ・ザーン)。男女4人の同居が始まり、リレイナがひょんなことでMTV局の編集局長を務めるマイケル(ベン・スティラー)に出会った日から、彼女に注がれるトロイの眼差しが微妙に変化する。TV局をクビになり、面接先にことごとく拒絶されるリレイナの《リアリティ・バイツ》。
社会で活躍するマイケルと、世の中に染まらないトロイとの間で、彼女にとって本当にたいせつなリアリティを探さなければならない時が訪れている…。



奇しくも前回に採りあげた『暴力脱獄』の「卵を50コ食べてみせる」という台詞をトロイが口にする。リレイナがルームシェアの友人たちを撮るドキュメンタリー・ビデオの中で。そのビデオをMTV局上層部に売り込むため目を通したマイケルは、どうやらそれが映画の台詞ということを知らなかったらしくて「印象的な言葉だね」と恋敵トロイに。
過去からの引用。あらゆることが出尽くして、もはや創造的になりようもなかった1990年代。Deee-Liteが90年にヒットさせた「Groove Is in the Heart」で、ハービー・ハンコックの過去の映画音楽を引用・再構成していたのが象徴的。その前年にデビューしたレニー・クラヴィッツなんて人も、ずいぶん懐古趣味な音楽でしたし、音楽のみならずデザインとかTV番組とか、いろいろなところで引用・再利用の後ろ向きな動きが表面化した時代だったような。
そしてそれは、《成長が終わるとき》ということも意味していなかったろうか。株や土地の値段が上昇し続けることのうえに成り立ったバブル経済。その破裂。失われた10年間。映画の設定からTVドラマ『ふぞろいの林檎たち』を想起したりもするが、そのドラマが始まった頃はバブル期で、名もない私立大学を卒業する登場人物たちもあれこれたくましく生き抜く(らしい。1回も見たことないんです)。現実にも石原真理子とかな。
この映画に見られるリレイナをはじめ90年代の若者は、もっとナイーヴ。悪く言えばひ弱い。社会の中枢に居座ってる前世代があまりにもあつかましいってこともあるのかもしれんけど。そんな旧世代のモーニングショー司会者から嫌われてTV局を解雇されたリレイナは、卒業式で総代として答辞するほどの才媛だが、マスコミ志望の夢を捨てきれないためそれからの就職活動は挫折の連続。いっぽう哲学科の優秀な学生トロイはそんな現実から逃げたいのか、大学を中退してしまって定職にも就かずナイトクラブでのバンド活動。歌うことは90年代のオルタナ風。
といって、特定の世代にのみ共感を誘う映画となっているわけではない。むしろ古典的な青春映画・恋愛映画といえよう。90年代の若者のみならず、あらゆる人が、青春期に過去から圧迫されて創造的になれない姿、あるいは旧世代の固めたシステムの壁にはね返される姿を見て深くうなずくのではないだろうか。またその姿を的確に描くドラマ。男女5人の登場する構図があって、中でもよりシリアスな存在として描かれる3人の織り成す三角関係。社会に冷笑的で夢に生きるトロイと、組織の中で着実に生きるリアリストのマイケル、果たしてリレイナはどちらを選ぶのか。そういうリレイナの視点から作劇されており、男性のオラといえども彼女に自己投影して見ることになる、またそうさせるウィノナ・ライダーの清新な魅力も特筆される。結末はまあおとぎ話というかロマンチックなものですが、現実にはウィノナ・ライダーくらいの美人さんは実社会の勝ち組中の勝ち組男を選ぶと思うよん。ウィノナは女優なので石原真理子ばりにわけわからん人生を歩んでるらしいけど。

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