『Electricity』の魅力は多岐に渡るが、ひとつこれは発明だなと思ったのはやはり
『Electricity かなにか』
の『かなにか』だろう。英語にすると“or something (like that)"かなにかになるだろうかな。
音がいい。「カナニカ」というリズムとメロディ。「か、なに・か」という自然な日本語がゲシュタルト崩壊してカナリアとかカタリナとかピアニカとかカナガワみたいなカタカナ語に聞こえてくる。でも、ふと我に帰れば「か、何か」にちゃんと戻れる。絶妙な匙加減。
宇多田ヒカルといえばデビューして一言目が『な・なかいめのべ・るでじゅわ』だったのでこればかりが取り上げられがちだが、25年経ってこの手の手法がますます巧みに、多義的に組み上げられるようになっている。そもそもタイトルの『Electricity』からして
『E・e・e・e / le・e・e・e /
ct・ri・ci・ty/ka ・na・ni・ka』
という風に、英単語も日本語同様分解して繋ぎ直してメロディとリズムに載せている。ここのキャッチーさったら、ない。脳内エンドレス・リピート病に何度罹った事かわからない。完全に中毒症状にさせられた。
恐らく、このリフレイン、音が先にあって言葉が後から付け加えられているのだと思われる。『Electricity』の部分はメロディと言葉が同時だったかもしれないが、『かなにか』については、後から言葉を載せた気がするよ。
もし、仮にそうだとすると、仮歌の段階では英単語が何か載っていたと想像するのはそこまで強引ではない。ヒカルが仮の歌詞を載せる時に、日本語の歌でも英語でまず載せてみるというのはよくありそうなことだ。『Prisoner Of Love』や『Time』などは英語で歌詞を書いたはずなのにそちらはお蔵入りになって日本語バージョンの方だけリリースされてる訳で、結果的には「仮歌を英語で歌って、完パケ時には日本語で」ということになっている。『Electricity』もそれに近かったんじゃないかな。
で、戯れに『かなにか』の所に当て嵌まるような単語が何か無いかなと思いを巡らせていたら、あぁ、これが一番近いかなと思えるのがあった。"canonical"(カノニカル)だ。これならピッタリ「カナニカ」にハマるのよね。
結構聞き慣れない単語かもしれない。でもこれ、日本語に訳すとすれば「正準」かなにかになるんだよね。そう、先週このブログの「清純より正準」で出てきた「正準」だわね。
といってはみたものの、ヒカルがサラッとこのあんまり見ない単語を歌うかというとなぁ…ああ、そういや音楽用語には「カノン(canon)」というのがあるな。「パッヘルベルのカノン」で有名なあの「カノン」。これの形容詞形が「カノニカル」だね。でもま、ヒカルが普段使ってるかというと、疑わしい。
これでもし『Electricity』という楽曲がそのカノン形式であれば面白かったけど、全然そんなことはなかったぜ。カノン形式というのはくだけていえば輪唱で、日本だと「かえるのがっしょう(かえるの歌)」が有名だわね。同じメロディがあとから遅れて次々とついてくるやつね。『Electricity』は、そうじゃなかった。
もしかしたらヒカルさん、アインシュタインだ量子力学だという単語を発してるからには、数学や物理学の本も読んでいてそこでcanonicalという単語に出逢ってるかも(この手の本は日本語より英語の方がわかりやすい)とも思ったが、この単語は読み物には余り出てこない。教科書読んでないとな。なので、この可能性も薄いか。
てことで邪推の域は出ないんだけど、しかし、『Electricity かなにか』の部分を『Electricity Canonical 』って歌うとホントによくハマるんだよね。その後の歌詞まで繋げると
『Electricity (is) canonical between us』
となって、これをGoogle先生に翻訳してもらうと
「私たちの間の正規の電気」
或いはisを補って
「電気は私たちの間で正規のものです」
っていう風な意味になるのよねぇ。正規のものってのはよくわかんないけど、電気が走って僕らの間の見通しが良くなる、みたいな意味にも取れるわな。でも"canonical"以外の候補だと"chronically"とか"a carnival"とか"cannot leak out"とか…うーん、難しい。もう折角なので、『Face My Fears』みたいにEnglish Versionをリリースしてくんないかね『Electricity』も。そうすりゃこのもどかしさかなにかもうまく晴れそうな気がするよ。
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