無意識日記
宇多田光 word:i_
 



今週はついつい英語歌詞の細かい所から話を始めてしまった。だってさ、この新しいライブミニアルバムの2曲の素晴らしさなんて聴けばわかるじゃん?? 何か言うまでもないじゃん?? いきなりディテールから切り込んで構わないと思っちゃったのよね。

でもそれって無意識日記の存在否定みたいなもんでなー。思ったことをちゃんと書いて残して後から読めてこその日記なんですよ。言うまでもないこと、わかりきったこともそうでないことも総て平等に記しておくから前に進める。

なので思い直して普通に総評と感想を書こう。2トラックとも心底素晴らしいんだ。


今宵は『Rule(君に夢中)』の方を取り上げようか。兎に角聴きやすい。すっと入ってきてじんわりあたたまる。冬場寒い外から家に帰ってきて最初に淹れたココアみたいに身に心に沁み入り渡る宇多田ヒカルの優しく切なく響く歌声。堪らない。

スタジオ盤の『君に夢中』はサウンドがとても重厚だった。敷き詰められたピアノの低音アルペジオがひっきりなしに鳴り響いていて、キャタピラで氷と雪を均していくような、そんな分厚いサウンドだった。休符知らずに16分音符を並べ続けたサウンドってのは私としては大好物なのでそれはもう何百回と堪能させて貰ったが、翻ってこの『Rule(君に夢中)』のサウンドの隙間の多さ、そして耳当たりの優しさはどうよ? まるで別物の音像になっている。踏み固められた雪道とふんわり粉雪くらいに違う。

同じスタジオライブでも、『Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios 2022』の方は「生演奏で如何にアルバム『BADモード』の重厚で複雑なサウンドを再現するか」に重点が置かれていた為、バックコーラスのフォローも含めて非常に緻密で綿密なサウンドだったが、こちらはドラムにベースにピアノがメインでたまにギターが顔を出す程度。その上ピアノもベースもスタジオ盤と全く真逆の方向性で至る所休符だらけ。寧ろ音符より休符の方が多いくらいよね。

隙間が多い割に、各演奏者は非常に達者に要所を押さえて痒いところに手が届いてくれる為、まるで見守られているような包まれているような暖かさの中でヒカルのエモーショナルな歌声を味わい尽くせるのだから堪らないったら堪らない。歌自体のアプローチはスタジオ盤のそれと大体同方向だが、特に英語歌詞はスタジオ盤の日本語歌詞に較べてセンテンスを減らされており─例えば日本語歌詞でいうと『ここから先はプライベート』の部分は歌が無い─、余計にサウンドの余裕があからさまになっていく。しかし、声自体の醸し出す切なさはいつも通り…というかバックコーラスが皆無なお陰で歌声が空間に散逸しない為スタジオ盤より更に切なく言葉と旋律が真ん中に集中している。ヒカルの歌声を噛み締めたいと思った時、このメインヴォーカル1本のみという状況は焦点が定まっていて実にいい。聴いていて惑わない、迷わない。聴きやすさというのは、この、聴き手が注意を散漫にしようがないシンプルな音作りに依るところが非常に大きい。じっくりヒカルの歌声を堪能できる。嗚呼、他の『BADモード』の楽曲もこの編成とこの方向性のアレンジで聴いてみたいですわ。


そしてこのサウンドの方向性を突き詰めた先に「360 Reality Audio Version」が待っているはずで。これを聴くのが私楽しみでなりませんねん。生配信当日はネット接続不良の為早々に聴くのを断念したのでね。一応直前に360RA対応のヘッドフォンも手に入れたんだけども。どうせならSONYによる360RA版のみならず『First Love 2022』や『初恋 2022』のようにAppleのドルビーアトモス版もリリースして欲しいとこなんだけど無理ですかね。贅沢言い過ぎかな。とにかくこの余裕と優しさのある大人なサウンドは立体音響との相性が抜群極まりないので、首を長くしてそちらのリリースも待ちたいと思います。それまではこのステレオ版を何度も堪能しておきますんで。

それにしても、いい。いいなぁこのライブミニアルバム。堪らないです本当にね。

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で話を戻すと。

『Everybody's got their eyes on you』

は「誰しも君を見て振り返る」みたいな意味だから、いわばこの状況そのものが“you rule”なのだ。「君しか勝たん」状態だね。だから『I let you rule』という歌詞は過去形でも現在形でも過去形でも大して意味は変わらない。

一方、『I never let you conquer me』の方はというと。その直前の歌詞が

『Can't believe you met someone cool』

となっている。意味は「君がそんなステキな(coolな)人に出会ったんて信じられない」みたいな感じだが、真ん中が『you met』と「meet/出会う」の過去形になっている。

なのでこの歌詞の流れで『you met』から『I never let』に続くと、このletを過去形に受け取る人が出てくる事もまた自然だ。対比或いは対照としてね。

ここを「ただ韻を踏んだだけ」ととるかどうかで読み取り方が変わってくる…

…うむ、話がややこしくなってきたな。自分で書いててそう思った。

なので、細かい話はこの後も続くのだがそこをすっ飛ばして結論だけ書くわ。この

『I never let you conquer me
 I let you rule』

という歌詞は、ひとつには

「惚れられたかった訳じゃない
 ただ君に最高に輝いていて欲しかったんだ」

という訳し方が出来て、これってドラマ「最愛」を思い出すと加瀬さんの台詞だよねという結論。最愛の相手ではあるけれど恋愛対象ではなかったというかね。英語のLoveは恋でも愛でもあるけどここでは恋ではないけど愛ではあったという話。まぁ、親目線ですよねぇざっくり言えば。ざっくりですが。

もうひとつには、

「君に私の総ては奪わせない
 とはいえ君は最高だ」

という訳し方もあって、これはドラマ「最愛」でいうと…誰だろ?すぐには思い付かないけど、『君』が余りにステキすぎて夢中になり過ぎて私が壊れちゃう。それはマズい、みたいな話。『君に夢中』って邦題を回収する感じだね。この訳し方が必要だと思うのは、この『Rule(君に夢中)』という曲がアウトロでひたすら

『I never let you conquer me』

を繰り返すから、なんですよ。いわば、この部分は「この曲でいちばん言いたかったこと」なはずなんです。なぜか曲名を含んだ『I let you rule』の方じゃない。となると、ここを連呼する拘りは、「決意表明」だと解釈するのが自然な訳で、そうなると…というはなしはまた細かくなるのでバッサリ切ります。(酷ねぇ)

どちらが正解かはわからない。どちらも正解ではないかもだし。ただ、仮歌をそのままリリースしたようなトラックかと思いきや実はめっちゃ複雑な歌詞かもしれないという警戒心は出てきちゃいましたわ私の中で。もうちょい整理されたらまた戻ってきますね。

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