無意識日記
宇多田光 word:i_
 



実をいうとクリス・デイヴと聞いて「はずしたなぁ」と思った。自分のマークしていたドラマーとは違ったからだ。

『EXODUS』の『Kremlin Dusk』に客演した当時THE MARS VOLTAのジョン・セオドアはドンピシャだった。いやまさかHikaruが本人を呼び寄せるとまでは思ってもみなかったが、THE MARS VOLTAの登場はプログレ・ファンには余りにも衝撃的だった為、チェックしない訳にはいかなかったのだ。ただ、プログレを聴きつつ宇多田ヒカルもチェックしている人間というのの絶対数が少なかった(居たのか?というレベル)ので、私は「あーきたきた」と言えた、というただそれだけの事だった。

初期THE MARS VOLTAにとってジョン・セオドアは絶対的な、決定的な要素だった。バンドの中心人物が元AT THE DRIVE-INという事で、彼らの新しいバンドだからとTHE MARS VOLTAに飛びついた人たちは、彼らのプログレ全開の音楽性を語る語彙を持ち合わせていなかった。僕らからすればTHE MARS VOLTAは「LED ZEPPELIN meets KING CRIMSON sometimes PINK FLOYD」と形容すれば9割方音楽性が伝わった。正直ファン層とバンドの音楽性にミスマッチが起きていたのだが、宇多田ヒカルはAT THE DRIVE-IN時代から彼らのファンでありつつTHE MARS VOLTAにもはしゃぎまくるという珍しい人だった。何しろLED ZEPPELIN好きだったから初期THE MARS VOLTAの音楽性にハマらない訳もないのだ。しかも20歳の既婚女性で…そんな人、日本人ではヒカルとあと数十人居るかどうかの希少種だったろうな…。

その「LED ZEPPELIN meets KING CRIMSON sometimes PINK FLOYD」という音楽性を支配できたジョン・セオドアという人は、つまりジョン・ボーナムとビル・ブラッフォードの両方の役割を担えたのだ。とんでもないスーパー・ドラマーであった。自分で言ってても変な言い方だと思うが、よくもまぁHikaruの曲に参加してくれたものだよ。

ヒカルはドラマーの人選に関してはそれはそれは手厳しい。リズム感がよすぎて、多少正確なリズムを刻める程度のドラマーでは務まらない。なにしろデビュー・ライヴではヴィニー・カリウタを従えたのだから。ボヘサマのジョン・ブラックウェルも凄まじい腕だったし、この歴代のメンツの中にあってはフォレスト・ロビンソンが地味に思える程である。


そんな、ドラマーに手厳しいHikaruが次に共演するドラマーは誰だろう、と考えた時に私が候補に挙げていたのはクリス・デイヴではなかったのだ。そこがちょっと悔しいというか何というか。長くなったのでその話の続きは又次回のお楽しみという事で一つ。

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最初何の事かわからなくてさ。「宇多田ヒカルとレコーディング! なんてアメージングなんだ!」っていうツイートがまわってきて。「あれ、沖田さん、ツイッター・アカウントとったのかなぁ?」と笑う彼の写真を眺めながら思ったのだけど、その時私が寝ぼけていただけだった。もう一度見直してみると、アカウント名はクリス・デイヴ。…え?(汗)

ここ5,6年、いや10年位になるかな、ジャズが他のジャンルの音楽とのクロスオーバーする"現象"が殊更増えている。総てを捨象して極おおざっぱに言えば、世代が交代してジャンルの壁が低くなったのだ。クロスオーバー、というとなんか仰々しいが、砕けていえばミュージシャンが友達を作る時に音楽性を気にしなくなった、という話。

お陰でミュージシャンの人脈図を描こうとする時にその広がりに唖然とする。その中でもとりわけ蜘蛛の巣のように多方面に人脈の糸を張り巡らせている"中心的な人物"が何人か居て、その中でもいちばん有名なのがグラミーも受賞しているロバート・グラスパーだ。

彼がエポック・メイキングなのは、ほぼジャズのサウンドをベースとしたアルバム(2012年の「ブラック・レイディオ」)がR&B部門で受賞した事だ。ジャズとヒップホップ・カルチャーの橋渡し的な役割を果たしたこの歴史的な(というにはまだ早いかもわからないが)このアルバムの全曲でドラムを叩いているのが、今回ヒカルの名前を出してツイートしたおっさんドラマー、クリス・デイヴなのである。

要は、今最も旬の、シーンを代表するドラマーのひとりという訳。


そんな話はウィキペディアに幾らでも載っているのでそちらを参照するとして。無意識日記ではヒカルとどう繋がりがあるミュージシャンなのかをピックアップしないと話にならないよねぇ。

クリス・デイヴは2010年だかに自らのソロ・プロジェクトで来日公演を行っているが、その時のベーシストがサンダーキャットなのである。そう、先日の「MUSIC HUB」ゲスト出演の時に、ダヌパのお気に入りとして名前が上がったあのサンダーキャットだ。同じくその時名前のあがったディ'アンジェロ。彼のアルバムのクレジットにもクリス・デイヴの名前がある。「MUSIC HUB」でかかった2曲に関してはクリス・デイヴの演奏ではないが、サンダーキャットやディアンジェロをチェックしていれば自然とクリスの名前は浮かび上がってくる。或いはクリスのディスコグラフィをチェックしていたらサンダーキャットやディアンジェロの名前をみつける、という流れもありえよう。

他にクリスは2009年のマクスウェルのアルバムにも参加しているが、マクスウェルといえば1999年当時ヒカルが「今いちばん好きなヴォーカルかも(※ただしフレディー・マーキュリーは除く)」と言っていたシンガーだ。こんな所でもクリスの名前をみていたかもしれない。

要するに、ヒカルが自分の興味のある音楽を漁っていたら自然と名前を覚えるくらいに最前線でコラボレーションしまくっているミュージシャン・ドラマー、それがクリス・デイヴなのである。

そんなクリス、デビュー作品は90年代初頭のR&Bグループ、ミント・コンディションのアルバムだそうだが、彼を紹介したのがジミー・ジャム&テリー・ルイスだそうな。そう、ヒカルの4th&5thシングルをプロデュースしたあの天下のジャム&ルイスのご両人。もしかしたら今回ヒカルはジャム&ルイスにクリスを紹介して貰ったのかもしれないね。妄想が膨らむぜ。

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