無意識日記
宇多田光 word:i_
 



「?」
「!」

…これは、「史上最も短い手紙のやりとり」として有名な、ビクトル・ユゴーとその編集担当者の問答である。それぞれ、

「(本の売上はどう)?」
「(驚くほど売れてるよ)!」

という事らしい。史実かどうかは私は知らないが、なかなかに気が利いている。

ま、それとは関係なく。

昨今の(に限った事ではないけれど)コンテンツに必要なのはこの「?」と「!」だ。音読し難いなぁ、ったくもう。特に、情報量の飽和した現代においては前者の「?」を提供できるかどうかでコンテンツの訴求力が決まる。

インターネットにはコンテンツが溢れている。美しい曲、美しい絵、美しい写真。かわいい女の子、イケメン男子、もう幾らでも手に入る。世界が「!」で溢れていて、何の新鮮味もない。飽和した情報の、どれを選べばいいかわからない。

そこに「ん?これは一体何なのだろう?」と興味を引くものがあれば、一気に注目を集める事が出来る。どれを選べばいいかわからない、と言っていた人たちもいつのまにか、自分でも気がついていないうちにコンテンツを選んでいるのだ。

目下大評判のアニメ「けものフレンズ」はまさにこの「?」の提供が巧みだからこそ大ヒットしている。謎が謎を呼ぶ展開が、アニメとしての画面の稚拙さなど総て押し切って魅力として機能している。2017年現在、ハイクォリティーな作画は最早珍しくない。「!」と目を見張るような美しい動画だけでは、もう皆の気を引き続けられのだ。もし美しさだけで気を引こうと思ったら現代では新海誠(君の名はの監督ね)クラスの病的なまでにウルトラハイクォリティーな作画が必要になっている。あそこまで行くともう、ねぇ? 逆に、そんなものが全く無くても「?」さえ与えれば視聴者は次々と増えていく。それを「けものフレンズ」は証明してくれた。

もっとも、私個人は「けものフレンズ」に「?」は余り求めていない。確かに謎は気になるが、視聴の主な動機はそこにはない。どちらかというと、皆が最初に見た時に感じる優しく丁寧な世界と物語の「つくり」そのものに惹かれて観ている。故に、どうせなら謎なんて解けずにずっとかばんちゃんとサーバルちゃんがジャパリパークを探検してくれてもいいなぁ、とすら思っている。勿論12話で綺麗に完結してくれるならそれはそれでいい。また第1話に戻って、あの空気感を堪能しよう。

その"空気感"を演出するのに欠かせないのが、オープニング・テーマやエンディング・テーマ、バック・グラウンド・ミュージックといった音楽の数々である。「ようこそジャパリパーク」が流れてくると、ああ、今週分も楽しそう、と思えるし、オリエンタルでトライバルなBGMをバックにかばんちゃんとサーバルちゃんが連れ立って歩き始めるとそれだけで楽しい気分になってくる。少し展開がシリアスになるかな?と一瞬思ってもそこにほのぼのとした音楽が流れてきて「ああ、ジャパリパークでは、そんなことには、ならないな。」と思い直せる。この作品における音楽の力はとても大きい。

とは言ってみるものの、現代の、「?」で惹きつけるべき数々多種多様なコンテンツの中で音楽は「?」を与えるのがいちばん下手なジャンルと言える。幾ら美しい曲を聴いても、そこから「ん?もっと聴いてみたい」と思わせてくれる曲は滅多に現れない。もっと平たくいえば、音楽で「この続きが気になる」と思わせるのは、極めて難しい。

そこをどうするかは、今はプロモーション戦略にかかっている。コンテンツにおいて「?」を重視する話は、直接梶さんが(最近いつも)している話だ。もしこれが、歌や曲のコンテンツの中に内包されていたら、強力な事になるのにな。

裏を返せば、音楽は常に「!」を与える側面においては王者に近い。特にライブ・コンサートというコンテンツは「その夜に向けてみんな頑張る」という意味においてそれはもう太古の昔から最強のもののうちのひとつだ。演奏会と競技会の2つは、人間にとって究極のコンテンツだから。

問題は、そこにまでどう「!」と「?」を組み合わせて招き入れるか、だ。今宵は話が長くなったので続きはまたいつか。

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今朝方資料画像ツイートがまわってきた。昨年のユニバーサル全体のアルバム売上十傑に『Fantome』が含まれているらしい。ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデの名前に混ざってUtada Hikaruの名も。今や企業複合体として肥大化し過ぎて最早どこまでがユニバーサルかわからない位の規模の中で十傑とは素直に凄い。

もっとも、その十傑の中にはBACK NUMBERの名前もあるし、一昨年2015年の十傑にはDREAMS COME TRUEの名前もある。「ドリカム」がローマ字で"dorikamu"になっているのが微笑ましいが、Hikaruが極端に突出している訳でもない。しかし、それでもやはり昨年のユニバーサル(日本)にとって最大のコンテンツだったのは間違いない訳だ。

ますます、なぜSONYに移籍が可能だったのかがわからなくなる。普通、全力で慰留するよね。それとも、表立っていないだけでそれはそれは血生臭い政治的闘争の挙げ句に辿り着いた結論だったのだろうか。それとも、あまりにヒカルが「にべもない」態度だったので慰留するだけ無駄と早い時期に悟れたのだろうか。過ぎた事を蒸し返しても一円の利得もないのだが、「不自然」という印象は残ったままだ。

移籍がどれだけ円満だったかは、今後のバックカタログの取り扱いで決まるだろう。原盤の行方だ。果たして『EXODUS』と『This Is The One』の各曲の原盤は誰の手元に在るのだろうか。『Simple And Clean』と『Sanctuary』は? 次にHikaruの英語曲がリリースされた時、或いは海外でHikaruの活動が話題にのばった時などにまた『Utada The Best』みたいな作品が発売されるかどうかで、移籍の円満さと原盤の行方がわかる。

もしHikaruが過去作品の原盤を手にしていた上で移籍したというのなら、ユニバーサルは踏んだり蹴ったりである。いや勿論『Fantome』でしこたま稼いだのだからそれはウハウハなのだろうが、今後とれる筈だった収益を取り逃がしてしまったのは大きい。とんだ狸の皮算用だが。

前も触れたが、原盤権と自然著作権、出版権はそれぞれにゆるく別々の権利なので、例えば原盤権を持っていなくても同じ曲の新録音バージョンを制作すれば問題ない。そう字面通りにはうまくいかないのが音楽ってもんだが。

取り敢えず、今は次にSONYから出る新曲をひたすら待つだけである。現在でもヒカルが屈指のヒットメイカーである事を裏付ける資料であった。呟いてくれた方どうもありがとう。

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