トシの読書日記

読書備忘録

みずからあたため、ゆすぶり、かきまぜる

2017-08-29 17:44:42 | ま行の作家



丸谷才一「エホバの顔を避けて」読了


本書は河出書房新社より平成25年に発刊されたものです。初出はなんと昭和35年、自分はまだ小学校にも上がってない頃で、丸谷才一、35才の処女長編ということです。


ずっと前から読みたかった小説で、ネットで捜してもなかなかなくて、あったとしてもすごい高値がついていたりして、買えずにいました。多分、その頃は丸谷才一が亡くなった直後ということもあったのかも知れません。


それが先日、名古屋の栄、丸善に並んでいるのを発見、値段も2800円+税ということで即、買いました。


しかしこれはすごい小説ですねぇ。どんな感想を書いていいのか、ちょっと頭がまとまっておりませんが、とにかくなんとか書いてみませう。


旧約聖書の「ヨナ記」に材をとり、古代アッシリアを舞台に、神、エホバからの神宣を受けたヨナが、最後までエホバへの信仰を疑いつつ自己のアイデンティティの確立に苦悩するという物語です。


ヨナはエホバから<起ちてかの大(おおい)なる邑(まち)ニネベに往(ゆ)きこれを呼(よば)わり責めよ>との神宣を受けます。何故自分なのか、そして何故自分はそれに従わなければならないのか。このヨナの葛藤がこの作品の核心をなしています。そして娼婦のラメテ、その元情夫アシドド。この二人がこの物語の重要な役割を担っています。


ラメテは以前は神を信仰していたが、今はもう信じていないと言う。ヨナはその理由を聞いて大きく動揺します。神と個人、個人と国家。そのはざまでこの優柔不断な男は大いに悩み、苦しみます。


最後は圧巻でした。もともと旧仮名使い(歴史的仮名遣い?)で書かれているんですが、一番最後のほうはじょじょに漢字が少なくなっていって、とうとう最後はひらがなだけになってしまって、読みにくいことこの上ないんですが、しかしものすごい迫力で、読む者に迫ってくる、圧倒的な力を感じました。


すごい小説でした。もっと早く読めばよかったです。

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