トシの読書日記

読書備忘録

真実の嘘

2015-12-22 16:08:10 | な行の作家


野坂昭如「妄想老人日記」読了



いやぁびっくりしました。我が敬愛する野坂昭如が12月9日に亡くなったという新聞記事を読んで茫然としてしまいました。この作家の本は何冊も読んできましたが、やはり「エロ事師たち」が一番面白かったです。また一人、素晴らしい作家がいなくなってしまいました。


本書は平成12年に新潮社より単行本として、平成22年に中公文庫より発刊されたものです。先日ネットで偶然本書を購入したので早速読んだ次第です。


平成10年5月から11年12月までの約1年半の日々を日記という形式で綴ったものです。なので、野坂氏、68~69才の時期ということになります。まぁ日記なので野坂氏のプライベートのいろいろなことが解ってきます。奥様は元タカラジェンヌで、現役のシャンソン歌手とのこと。二人の娘も宝塚OGのようです。


しかしそれはいいとして、この人の酒の飲み方は只者ではないですね。一応断酒と言いつつ嫌酒薬なるものを服用しているようなんですが、その狭間で缶ビール24本とか飲んでいるようです。1日何も食べずに飲んではうつらうつらし、それが3日も続いたりと、ほとんどアル中です。


文中には戦争の悲惨さを思う箇所が随所に見られ、野坂の戦争に断固反対する強い思いが測々と伝わってきます。


晩年は脳梗塞で倒れてからはリハビリの身だったとか。先日のあの「戦争法案」をどのように受け止めたのか、今となっては聞くこともかなわなくなりました。


85才の激動の生涯を閉じられ、今頃あの世で思いっきり酒を飲んでいることでしょう。心よりご冥福をお祈りいたします。

いきあたりばったりの人生

2015-12-15 16:11:52 | あ行の作家


戌井昭人「まずいスープ」読了



ずっと気になっていた作家で、この人は他にも「すっぽん心中」とか「どろにやいと」とか、ちょっとそそるタイトルの本があって、どれを買おうか迷ったんですが、本作品がデビュー作を含む短編集ということで、これにしました。


読んでみてどうだったかと言いますと、うーん、ちょっと微妙でしたね。悪くはないんですが、ちょっと奇をてらった感がつきまとってなじめにくかったですね。


表題作を含む三編の短編(中編?)が収められているんですが、どれもこれも主人公やらその周りの人間がなんというか、ぐだぐだな感じで、昔よく読んだ大道珠貴を思い出しました。まぁ大道珠貴ほど怠惰な感じではないんですが、その場しのぎというか、いきあたりばったりというか、そんな感じで日々を送っているわけです。


しかし、基本的にぐだぐだなんですが、相手への思いやりだとか、距離の取り方だとかが、結構きちんとできていたりするわけですね。このあたりの書き方はうまいと思います。


ま、いずれにせよ、ちょっとのめり込むとこまで読む作家ではないかなと。少し残念でした

狂乱の旅路

2015-12-15 15:22:52 | た行の作家



富岡多恵子「逆髪(さかがみ)」読了



なんやかやといろいろありまして更新が1週飛んでしまいました。少しは拙ブログを見て下さっている方がいらっしゃるようなので、申し訳なく思っております。


さて、富岡多恵子フェアも最終となりました。トリを飾るのは本書であります。講談社文芸文庫から平成20年に発刊されたもので322項からなる長編です。


この小説はいろいろな面で示唆に富んだものになっています。男と女の関係のありかた、いわゆるジェンダーのこと、「結婚」という制度のあり方、そして姉妹とは?等々。


かつて姉妹漫才で鳴らした竹の家鈴子・鈴江。本書は主に妹の鈴江の視点から語られていきます。登場人物をざっと説明しますと、鈴江の姪、つまり鈴子の娘の明美、彼女はいわゆるレズビアンです。そして明美が恋い焦がれる相手が江島木見。彼女は広い一軒家を借りて一人で住み、「不思議の家」をつくる計画を立てている。それから鈴江の「知り合い」の泉さんという男。鈴江と泉さんとは昔はいい仲だったようだが、今はなんというか、友達でもなく恋人でもないという関係を続けている。この泉さんという男がよくわからない人で、何の仕事をしているのか、鈴江に「鈴子の聞き書き」を書かせて出版しようと企んだり、江島木見や明美を巻き込んで逆髪の芝居をやらせようとしたり、とにかく生活感のまるでない男なんですね。


明美が鈴江に尋ねます。「叔母さんはなぜ結婚しなかったの?」
鈴江、答えて曰く<男と女が性で組になるの無理だって気がずっとしてるの、ま普通は性でしか男と女は組になれないっていうか、それが自然だと思いこんでるわけよ、でも、男と女でウマク行く方が不自然な気がするのよ、>

そして鈴江は<鈴子は「結婚」という廓に身売りした>と言い放つ。


また明美は問います。<叔母さん、さみしいときなかった?>
鈴江<ずーっとさみしいよ、ちっちゃいときから>

このあたり、ちょっとぐっと胸にきますね。


この作品は他にも泉さんの友人にスナックのオカマのママを配したりと、「性」というものをとことん追求しようという姿勢がうかがえます。


いや、堪能しました。最後の最後にがつんときましたね。



とりあえずこれで「富岡多恵子ミニフェア」を終了とします。ほとんどが再読で、理解もより深まり、よりじっくり味わうこともできました。やっぱり名著は再読しないと。

11月のまとめ

2015-12-01 15:41:09 | Weblog


11月に読んだ本は以下の通り



富岡多恵子「新家族」
山田太一「遠くの声を捜して」
富岡多恵子「水上庭園」
富岡多恵子「動物の葬禮/はつむかし」
岸田佐知子 編・訳「居心地の悪い部屋」
太田和彦「居酒屋を極める」


以上の6冊でした。

富岡多恵子の本なんですが、「丘に向って人は並ぶ」以来、それを超える傑作にめぐり合わず、なんとなくもやもやしております。がしかし、今読んでいる「逆髪」これはちょっと予感がします。再読なんですが、もはや内容をほぼ忘れております。


さて、1年で一番忙しい12月がやってきました。中盤以降は、本なんか読んでるひまなんかないかもですが、まぁぼちぼちやっていきます。



11月 買った本 5冊
    借りた本 0冊

大人の酒

2015-12-01 14:58:33 | あ行の作家



太田和彦「居酒屋を極める」読了



富岡多恵子、最後の1冊と言っておきながら、また寄り道してしまいました。しかも太田和彦の「居酒屋本」。やっぱり人間、軽い方へ流れやすいんですね。そしてしかも本書は以前読んだことあったもので、読み始めたはいいものの、「これ、前読んだじゃん」と後悔しきりでした。なのでこの本は、いつも行くバーのマスターに進呈しました。


でもやっぱりいいですね、こういった本は。一人で居酒屋へ行ったときの立ち振る舞いについて、店の主人、女将と話をするコツ、他の客から話しかけられたときの受け答え方等々、非常に参考になります。居酒屋で本なんか読んでいてはいけないようです。



まぁ2回も読んだのでレビューはこんなところで。