トシの読書日記

読書備忘録

濃い昭和の匂い

2008-04-18 18:29:45 | さ行の作家
関川夏央「家はあれども帰るを得ず」読了

エッセイだと思って読んだら、あとがきで「これは全て嘘話である」なんて言い切られてびっくりしました。まぁどっちでもいいんですが(笑)

心に残った言葉・・・「きみが気にするほどには、世間はきみのことを気にしてはいない。」

そうなんですよね。そうなんですけどこれ、忘れがちです。

不思議な団欒

2008-04-16 18:31:46 | や行の作家
山田太一「異人たちとの夏」読了

第1回山本周五郎賞受賞作

この小説は映画にもなってるんですね。さっき、ネットで見たらなかなか豪華なキャストでした。

「異人」というのは幽霊のことです。こういうのをファンタジーホラーとでもいうんでしょうか。心揺さぶれらるような話ではないんですが、山田太一らしい、いい味に仕上がってます。この前に読んだ「夕子ちゃんの近道」とは対極にあるような小説で、主人公は若い恋人、幽霊である両親、これでもかというくらいのめり込んでいきます(笑)まぁそこにドラマが生まれるんですがね。

山田太一、吉野家の牛丼のように時々無性に読みたくなる作家です。

淡彩をかさねるような繋がり

2008-04-16 18:18:32 | な行の作家
長嶋有「夕子ちゃんの近道」読了

第1回大江健三郎賞受賞作

西洋骨董店「フラココ屋」でバイトをしながらその2階の倉庫も兼ねた部屋に居候する「僕」に関わる人々を描いた連作短編集。

以前に読んだ同作家の「パラレル」みたいだったらやだなぁと思いつつ読んだんですが、いい感じでした。このブログで何度も言ってることなんですが、長嶋有という作家は、人と人との関わりの描き方がほんと、うまいです。

でも、なんていうんだろう、物語の底に流れる微妙な空気・・・そっけないっていうんじゃないけど、なんかこう、冷たい感じが漂ってるんですね。もう少しだけ相手の中に入っていってもいいのではないかと。

あと、細かいことですが、会話の「 」(かぎかっこ)の使い方がなかなかうまいです。
たとえばこんな感じ

「売れましたよ、あのアンプ」
「うそっ」
「あわや茶碗まで売れそうになりました」あわや?いいんだよ売れても。いや、まずいですよ。絶対まずいです。

あわや?以降も会話なのに、わざとかぎかっこをはずしてあるんです。それがその場の雰囲気をよく表してると思います。

長嶋有の未読本は、まだ何冊かあるので、また読んでみます。

失われるべき世界

2008-04-12 21:59:08 | ま行の作家
村上春樹「羊をめぐる冒険」(上)(下)読了

本棚を眺め回しているうちに急に読みたくなり、手に取った次第。もちろん再読です。再読とは言っても読んだのは、もう何年も前のことでストーリーとか、すっかり忘れてました。

読み終えて感じたのは、村上春樹の小説は「完璧に計算されつくしている」ということ。一分の隙もないです。あと、情景の描写、人物の心象風景等、表現の仕方が他のどの作家とも違う、独特のものになっていること。それがまた読者を小説の中に引っ張り込む、ものすごいパワーとなっています。

ラストの約40ページは、もう、なんというか衝撃の連続で、ずっとどきどきしながら読んでました。

村上春樹の小説のパーフェクトな構築力に、ただただ身を委ねてその世界に遊ぶ快感・・・・至福のひとときです。

「ひとり」で向き合う家族

2008-04-12 21:40:12 | か行の作家
角田光代「真昼の花」読了

初出が1995年12月「新潮」というから、かなり初期の作品なんですね。
「八日目の蝉」とは、かなり趣きを異にしてます。

表題作の「真昼の花」は、主人公の女性が東南アジアの国(タイか?)をいわゆるバックパッカーみたいに放浪し、そこで自分の内面と向き合うという体裁をとってます。「対岸の彼女」の女社長の過去の話で、同じような箇所があったので、これは多分作者自身の経験であると思われます。
この小説は、はっきり言って心に響くものはありませんでした。

併載されている「地上八階の海」、これはなかなかおもしろかった。
主人公を取り巻く家族(母、兄)のそっけなさが物語の強いスパイスとして効いてる感じでした。自分の気持ちと相手のそれとが微妙にずれていて、そこに苛立ちを覚える主人公。なんだか井上荒野の雰囲気を感じてしまいました。影響を受けてたのかな?なわけないか(笑)

角田光代、もう少し付き合ってみようと思います。

疾走する狂気

2008-04-04 19:19:48 | ま行の作家
町田康「パンク侍、斬られて候」読了

今回の町田康の小説は舞台を江戸時代に移してのお話です。
しかしすごい。一気呵成に読みました。腹振り党、しゃべる猿、エスパーのオサム・・・もうね、狂ってます(笑)SF、ドタバタ、スラップスティック、なんでもありの世界。往年の筒井康隆もかくやと思わせる疾走ぶりです。

特に、ラストの河原での合戦は、もう圧巻としか言いようがない!

町田康、さいこー!!

3月のまとめ

2008-04-04 19:05:27 | Weblog
3月に読んだ本は以下の通り

町田康「へらへらぼっちゃん」
北尾トロ「裁判長!ここは懲役4年でどうですか」
筒井康隆「ダンシング・ヴァニティ」
町田康「屈辱ポンチ」
井上荒野「夜を着る」
井上荒野「ベーコン」
村上春樹「走ることについて語るときに僕の語ること」
絲山秋子「エスケイプ/アブセント」
野坂昭如「死刑長寿」
中上健次「十九歳の地図」
角田光代「八日目の蝉」
笙野頼子「三冠小説集」

ということで12冊でした。

やっぱりナンバーワンは「ダンシング・ヴァニティ」ですねぇ。ある新聞でこの小説を評して「文学で音楽をやろうとした、稀有な小説」とあったが、我が意を得たりの感です。

あとは、町田康「屈辱ポンチ」ですかね。井上荒野は2冊読んだんですが、傑出した感じではありませんでした。僕は同作家に対してはちょっと辛いかもです(笑)
それだけ期待が大きいとも言えるんですが。

異分子の「フェミニスト」

2008-04-04 18:47:32 | さ行の作家
笙野頼子「三冠小説集」読了

三冠というのは
「タイムスリップ・コンビナート」芥川賞
「二百回忌」三島賞
「なにもしてない」野間文芸新人賞
この3編が収められている小説集です。

「タイム・スリップ・・・」は再読です。

しかしなんていうんだろうねぇ、こういうの。面白いといえば面白いんですが、なんとも形容しがたいものがあります。
夢かうつつか幻か・・・かなり荒唐無稽な話なんですが、八方破れに終わってないところはさすがです。

笙野頼子、多分もう読まないと思います(笑)