トシの読書日記

読書備忘録

12月のまとめ

2010-12-30 18:10:22 | Weblog
今月読んだ本は以下の通り



町田康「真実真正日記」
内田百「サラサーテの盤」
レイモンド・カーヴァー著 村上春樹訳「大聖堂」
川端康成「眠れる美女」
阿部和重「ミステリアス・セッティング」
町田康「人間小唄」



以上の6冊でした。まぁ12月ですからこんなもんでしょう。


しかし今月は、数少ない中から自分にとって2冊目の読書となるレイモンド・カーヴァーの「大聖堂」、そしてなんだかなぁと思いながらしつこく追っていった内田百の「サラサーテの盤」。素晴らしい本に2冊も出会いました。僥倖です。やっぱりあきらめてはいけませんな。

また、今月は、いい映画も二本見ることができました。小林聡美主演の「マザー・ウォーター」それに「森崎書店の日々」。やっぱり映画もいいですねぇ。

猿が何だって?

2010-12-30 17:57:46 | ま行の作家
町田康「人間小唄」読了



というわけで、この間買った「人間小唄」早速読んでみました。しかし、これはなんだかなぁという感じです。最新書き下ろし長編といううたい文句につられて喜び勇んで買ったはいいものの、以前読んだ「告白」「宿屋めぐり」なんかとは比べ物にならないくらい貧弱な小説です。


まぁ、いつもの町田康の文章スタイルで、それはいいんですが、この小説のテーマはなんですか?ある作家に自作の短歌を送りつけ、それをその作家が文芸誌に無断で引用し、あげくにみそくそにけなしたことに対する報復、というのが筋書きなんですが、そのことで町田は何を言おうとしているのか、さっぱりわかりません。「告白」「宿屋めぐり」で取り上げたような深く、重いテーマをまた描けなどとは言いませんが、ただ原稿用紙を埋めるだけの意味のない小説は書かないでもらいたいもんです。書いてもいいんですが、1500円も出して買わせるな!

ったく。

ミステリアスならぬミス・セッティング

2010-12-30 17:35:10 | あ行の作家
阿部和重「ミステリアス・セッティング」読了



本作家の作品は「インディヴィジュアル・プロジェクション」で度肝を抜かれ、その後「アメリカの夜」「無情の世界」「ニッポニア・ニッポン」等、独特の世界を築き上げてきた作家で、一目おいていたのでした。

しかし、なんですかこれは。びっくりしました。あ~こういう小説も書くんだとちょっとショックでしたねぇ。まぁこれは若い子というか、中・高生向けに書かれたライト・ノベルという位置づけなんでしょうね。

なので、感想なんぞ書く気ありません。







名古屋市内に出て、映画「森崎書店の日々」を見て、帰りに以下の本を購入


町田康「人間小唄
岡崎武志「古本病のかかり方」

デカダンス文学の名編

2010-12-30 17:11:08 | か行の作家
川端康成「眠れる美女」読了



実は川端康成の小説をきちんと読んだことが一度もなくて、これは読書家の名折れでしょうと、恥ずかしながら今ごろ買って読んだのでした。


本書は、表題作の「眠れる美女」の他に「片腕」「散りぬるを」の3編が収められた短編集です。どの作品も登場する人物の心理描写がまことに細やかで、これが川端文学かと、感じ入った次第です。

「眠れる美女」は、若い女に薬(睡眠薬?)を飲ませて眠らせ、それに一晩添い寝をさせるという娼館に何度となく通う老人の話であります。単なるエロ爺いじゃねぇのと思いながら読み進んだのですが、どうしてどうして素晴らしい小説に仕上がっております。熟れきって腐る寸前の果実の芳香にも似た、退廃した空気が横溢してます。

「片腕」は、女にその片腕を借りて(なんと、はずれるんです)家に持ち帰り、それをなでたりさすったり、果ては自分の腕とはめ換えるという、下卑た言い方をするなら、腕フェチの想像が生んだ小説ということが言えると思います。がしかし、川端は、それをそういった単なる安っぽい物語にせず、他者との関係は、思想ではなく、肉体そのものによってこそ成就するという重いテーマに昇華させているところがこの川端康成という作家が短編の名手と言われる所以であると思われます。


とまれ、この、日本が世界に誇る文豪の小説を1冊でも読んだことで、ちょっと肩の荷が降りた思いです。

絶望と孤独の向こう側

2010-12-19 16:36:06 | か行の作家
レイモンド・カーヴァー著 村上春樹訳「大聖堂」読了



先日読んだ、同作家の「愛について語るときに我々の語ること」に魅了され、さっそく買って読んでみました。これも12編の作品が収められた短編集です。


いやぁ、これもよかった。というか、前回の「愛について…」に比べてより一層カーヴァーらしさが際立っている印象です。


孤独と絶望、その向こうにほのかに見える希望(のようなもの)。これがカーヴァーの描く世界といっていいと思います。


巻末に訳者である村上春樹が言っているように、カーヴァーの書く文章は、それが深く重いテーマであるにもかかわらず、決して押しつけがましくなく、むしろ即物的で素っ気ないくらいの雰囲気すらあります。しかしそれが逆に小説に深い味わいを醸し出しているのだと思います。


印象に残ったのは、やはり衆目が一致するところの「ささやかだけれど、役に立つこと」。それに「ぼくが電話をかけている場所」、「大聖堂」ですね。他にも「羽根」、「コンパートメント」、「轡(くつわ)」等々、まぁほとんどといっていいくらい、素晴らしい作品ばかりでした。


その中でも、と言われれば「ささやか…」ですね。これは、前回読んだ「愛について…」に収められていた「風呂」をバージョンアップしたもので、カーヴァーは、以前書いた作品をこのように、しばしば手直ししてまた発表しているようです。「ささやか…」は「風呂」に比べると、同じ短編ながら倍くらいの長さになっています。自分としては、「風呂」の、まるでぶっきらぼうなストーリー展開のしかたも捨てがたいんですが、「ささやか…」の細やかな情感を描いたいくつかのシーンは、ほんとに忘れられません。感動しました。

「風呂」に出てこなかったパン屋の主人の人生。ささやかだけれども、それにすがるしかない人達。彼らには、それに代わる何ものをも持たないという辛く苦しい人生。激しく感情移入してしまいました。



巷では、映画で公開されている「ノルウェーの森」が話題になっていますが、自分は、同じ村上春樹関連でも、こちらのレイモンド・カーヴァーの読書にいそしむことにします(笑)

当代切っての反骨の文学者

2010-12-19 16:13:54 | あ行の作家
内田百「サラサーテの盤」読了



エッセイで今ひとつぴんとこなくて、短編でもなんだかなぁという思いで、この内田百という作家は、世間であれほど騒がれているのに何故なのかという疑問がずっとぬぐえずにいたのでした。


本書でやっと目が覚めました。もともと「サラサーテの盤」という長編小説だと勘違いして読み出したんですが、本書は16編の短編が収められている作品集です。以前読んだ「冥途/旅順入城式」は、初期のもので、この「サラサーテの盤」は、昭和13年~34年と、後期のものであります。やはり、年を経るに従って練れてくるというか、深みが全く違いますね。


わけても特筆すべきは「柳検校の小閑」。この小説はすごい。盲目の琴の師匠である柳検校の捕らえる音、光、手ざわりの描写。ほとんど盲人の世界への自己同一化と言っても過言ではないほどの精緻な言葉で綴られています。

解説を三島由紀夫が書いているんですが、三島もこの小説に大きく章を割いて絶賛しています。なんだか三島由紀夫と感覚が似ているみたいで、ちょっとうれしかったりします。


他にも「断章」、「菊の雨」、「サラサーテの盤」、「とおぼえ」等、秀作が並び、この作品集こそ内田百の真髄であると自分は信じます。




内田百、お見それ致しました。

虚々実々の日記

2010-12-06 17:22:00 | ま行の作家
町田康「真実真正日記」読了



で、さっそく読んでみました。相変わらずの、いつもの町田康でありました。日記という形態を使った小説ですね。町田康自身と主人公が、結構オーバーラップするんですが、まぁフィクションですからねぇ。でも、小説の中で出てくるパンクバンド「犬とチャーハンのすきま」は、現実の町田康率いるバンドでもあります。宣伝してんのか?(笑)


相変わらずやってくれるなぁという感じで、楽しく読ませていただきました。

11月のまとめ

2010-12-06 17:05:02 | Weblog
11月に読んだ本は以下のとおり



岡野宏文/豊崎由美「百年の誤読」
西村賢太「二度とはゆけぬ町の地図」
アラン・シリトー著 丸谷才一/河野一郎訳「長距離走者の孤独」
朝倉かすみ「夫婦一年生」
レイモンド・カーヴァー著 村上春樹訳「愛について語るときに我々の語ること」
宇野浩二「思い川/枯木のある風景/蔵の中」
坪内祐三「ストリート・ワイズ」
吉田篤弘「百鼠」


以上8冊でした。最近では平均的ペースですかね。


11月は、なんといってもレイモンド・カーヴァーの「愛について語るときに我々の語ること」ですね。飛びぬけてます。同作家の「大聖堂」、買ってあるので読むのが楽しみです。




仕事を夕方で終わって床屋へ行き、帰りにいつも寄る書店で以下の本を購入



町田康「真実真正日記」
いしいしんじ「みずうみ」
阿部和重「ミステリアスセッティング」