トシの読書日記

読書備忘録

6月のまとめ

2008-06-30 16:42:39 | Weblog
6月に読んだ本は以下の通り


角田光代「人生ベストテン」
村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」
     泥棒かささぎ編
     予言する鳥編
     鳥刺し男編
中島義道「人を愛することができない」
三崎亜記「鼓笛隊の襲来」
山田太一「岸辺のアルバム」
朝倉かすみ「タイム屋文庫」
朝倉かすみ「肝、焼ける」
富岡多恵子「波うつ土地/芻狗」
蜂飼耳「転身」
辻仁成「二十八光年の希望」


「ねじまき鳥」の3部作を含めて12冊でした。

記事の中では、納得できないようなこと書きましたが、やっぱり今月のベストは「ねじまき鳥」です。あと、朝倉かすみの「田村はまだか」にない魅力を発見できたことも大きな収穫でした。

これで、今年も半分終わってしまいました。べつに感慨はないんですが、ここで、今年上半期のベストテンを選んでみようと思います。

半年間で67冊読みました。では

 1:  村上春樹「羊をめぐる冒険」(上)(下)
 2:  絲山秋子「海の仙人」
 3:  町田康「告白」
 4:  桜庭一樹「私の男」
 5:  小池昌代「タタド」
 6:  蜂飼耳「紅水晶」
 7:  イーユン・リー「千年の祈り」
 8:  朝倉かすみ「タイム屋文庫」
 9:  筒井康隆「ダンシング・ヴァニティ」
10: ジュディ・バドニッツ著 岸本佐知子訳「空中スキップ」

やはり村上春樹ですねぇ。「羊---」は再読なんですが、半分忘れてたんで、新鮮な気持ちで読めました。10人中女性作家が7人というのも、なんだかなぁという感じですが(笑)
どの作品にも思い入れがあって、順位をつけるのにほんと、苦労しました。また、ここに入ってない作品で、わずかにもれたものもあってちょっと心が痛みます(笑)
ちなみに
井上荒野「夜を着る」、長嶋有「夕子ちゃんの近道」、大江健三郎「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」、富岡多恵子「波うつ土地/芻狗」
あたりが、最終審査で、もめにもめて惜しくも選外となってしまいました(笑)

今年の下半期、どんな小説が僕を小さな旅に連れて行ってくれるのか、楽しみです。

愛の光、命の輝き

2008-06-30 16:27:28 | た行の作家
辻仁成「二十八光年の希望」読了

久しぶりの辻仁成です。

絶望の中からもわずかな光を見出し、それにすがって生きる二人。以前読んだ「サヨナライツカ」を思い出しました。この作家は文章がいいですねぇ。ほんと、美しいです。たまにはこんなラブストーリーにどっぷり浸かるのもいいもんです。

物語の後半で、病に侵されたハナが、自分のために職も名誉も捨てるというジェロームに、来年もう一度三つ星に挑戦してほしい、そうしてあなたが輝くところを見たい、と彼の生きる道を彼のために示すところは、ハナの心情を思うと、万感胸に迫るものがありました。辻さん、うますぎます!

あるがままを受け入れる

2008-06-24 20:38:32 | は行の作家
蜂飼耳「転身」読了

詩人出身の作家が続きます。この小説は、自分が以前、同作家の「紅水晶」を読み、すごくよかったので姉に薦めたところ、姉がこの作家にハマって「これを読みなさい」と、この「転身」を貸してくれたのでした。

初の長編小説ということで、興味津々で読み始めたんですが、正直言ってどっぷり浸かるとこまではいきませんでしたねぇ。

物語全体を支配する「突き放す」感じに最後までなじめませんでした。アルバイト先で知り合った人と北海道へ一緒に行き、マリモを売る仕事を手伝うんですが、そこの家族はわけもなく突然どこかへ行ってしまったり、また主人公の琉々(るる)もあっちへ行ったり、こっちへ行ったり・・・で、行った先でいなくなった友達の家族と出会ったり・・・。

文章はいいです。さすが詩人です。たとえば・・・
「雲が切れる。光が射す。水の上はいっぺんに明るくなる。男たちは手を止めて、光に縁取られた雲の方を見た。鳥の声が、雲から湧くように降りそそぎ、光の粒になって水面を跳ねた」

全体の、なんだか理不尽な雰囲気は川上弘美にちょっと似てます。でも、似てるってだけで、消化しきれてない感じかなぁ。

次作に期待です。

「生と性」の深層

2008-06-24 20:24:40 | た行の作家
富岡多恵子「波うつ土地/芻狗(すうく)」読了

蜂飼耳を読み、小池昌代を読んで、「やっぱり詩人の小説はいい!」と実感し、それなら大御所に登場願おうと、手に取った次第。

かなり過激な小説です。初出は昭和58年というから今から25年くらい前になるんですが、今読んでも充分に過激です。そうやって考えると、この本が出版されたときの世間の反応はどうだったんでしょうかね。かなりの問題作とされたんじゃないでしょうか。

いつか読んだ野坂昭如の小説を思い出しました。主人公に作者の思想を語らせてるんですね。そういう意味では、小説の名をかりたエッセイと言っては言いすぎかも知れませんが、それに似た気配はあります。

妻のある男と関係する女の冷徹な目。男を貶めたい、嗤ってやりたいといつもおもっている女。そんな男ならつき合わなきゃいいじゃんと思うんですがね(笑)
しかし、そういうシチュエーションにしないと、この小説は成り立たないのでした。

久々にどっしりとした骨のある小説を読みました。

独身女の呟き

2008-06-24 20:09:17 | あ行の作家
朝倉かすみ「肝、焼ける」読了

朝倉かすみ、連続読みです。
第27回小説現代新人賞を受賞した表題作を含む、全6編の短編集。

「肝焼ける」というのは、北海道、東北地方の方言で、「じれったい」とか「いらいらする」というほどの意味のようです。

場面場面の描写がいいですねぇ。非常に観察眼が鋭いです。しかし、どの作品も30代の独身女性の話ばかりで、それほど感情移入するところまではいきませんでした。まぁ、話としてはおもしろかったです。文章は、先の「タイム屋文庫」と同じく、くっきりした感じで好感がもてました。

中でも出色だったのは「コマドリさんのこと」。真面目で平凡な駒鳥さんの思いが、読んでてちょっとせつなくなりました。そして爽快なラストがあって、ちょっと救われた感もあって楽しめました。ちなみにこの作品は第37回北海道新聞文学賞を受賞したそうです。

朝倉かすみ、ブレイクの予感です。(って僕の中だけか 笑)


恋のつづきは・・・

2008-06-20 18:32:17 | あ行の作家
朝倉かすみ「タイム屋文庫」読了

「田村はまだか」で人気の作家ですが、この「田村」はいまいちピンとこなくて、でも、気になる作家だったので本書を選んでみました。

なかなかいいです。読ませます。ちょっとロマンティックすぎるきらいはあるものの、それに流されない文章力はなかなかのものです。
出だしがいいんですねぇ・・・「ぱっ。市居柊子は目をあけた。天井を見、あたりを見回し、またの間にうずくまっている真っ黒に気がついた。腹筋に力を入れて首を起こす。真っ黒なのは猫だった。」
思わず引き込まれます。

後半、ちょっと書き急ぎの感は否めないものの、ぽきぽきした感じの文章に好感がもてました。

朝倉かすみ、もう1冊読んでみます。

喪失と再生

2008-06-14 18:45:00 | や行の作家
山田太一「岸辺のアルバム」読了

本作家の小説はいろいろ読んだんですが、やっぱりこれは押さえておかないとねぇ。
知らなかったんですが、これがデビュー作のようです。

何気ない日常にかかってきた1本の電話から、家族の崩壊が始まる。中間あたりで長男の繁の独白が、この小説の主題になっている。つまり、いろいろな事件が起こっても、全てがうやむやのうちに終わってしまう。というか、誰にも相談せずに終わらせてしまう。なんのコミュニケーションもなく。繁一人が、母の浮気の現場を押さえるべく尾行したり、姉を辱めたアメリカ人のアパートに殴り込みに行ったり、父親の仕事の様子を探ろうと、晴海埠頭まで出かけたりと、まさに八面六臂の活躍です。

そして最後、台風の影響で増水した多摩川の堤防が決壊し、家が流され、そして家族はリセットされる、という、非常に分かりやすい展開なんですが、この作家は、他の小説でも同様なんですが、会話の部分といい、地の文といい、かなり抑えた筆致で書いていて、これが僕にとってこの作家の大きな魅力になってるんです。

残念ながら、これを原作としたテレビドラマは見てないんですが、「わが国のホームドラマに革命を起こした、不朽の名作!」ということなので、いずれ機会かあればDVDかなにかであれば見てみたいもんです。

歪み、揺らぐ世界

2008-06-14 18:28:31 | ま行の作家
三崎亜記「鼓笛隊の襲来」読了

本作家の小説は「となり町戦争」「バスジャック」と読んできて、これが3冊めです。

相変わらずの三崎ワールドです。しかし、この人、ずっとこの手法でいくのかな。そのうちネタが尽きるのではと、余計な心配をしてしまいます。

着想がおもしろいし、それなりに読めるんですが、もうこの作家はいいかなと(笑)狙いどころはいいんですが、前2作に比べて物語の構成とか、表現がなんだか稚拙な印象を受けるのは気のせいでしょうか。

村上春樹を読んだあとでは、全てが色あせるのかなぁ。

マイナスのナルシス

2008-06-14 18:15:37 | な行の作家
中島義道「人を愛することができない」読了

久々の中島義道です。これは、2003年に単行本として出版され、2007年に文庫で出てるので、わりと最近書かれたもののようです。

自己愛にかんじがらめになっている著者の心情を露わにし、これでもかと身内の「愛のなさ」を暴露する内容には辟易させられました。

言わんとすることはわかります。理解できるんですが、ここまで自分の母、父、姉の醜い確執を並べ立てるのはちょっとどうかと・・・・。
また、自分の母親の特異な性格を世間一般の女性の代表のようにして持論を展開するのは、強引な論理であり、ここは到底納得できません。

解説で、同じ哲学者である大森正博氏の言によれば、本書は「奇書中の奇書である」と述べているように、そう思って読めば、そんなに眉を吊り上げて反論するのも大人気ないかなと思ったりもします。

失われたものを求めて

2008-06-14 18:04:00 | ま行の作家
村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」
     泥棒かささぎ編
     予言する鳥編
     鳥刺し男編     読了

3部作という大長編で少々疲れましたが、春樹ワールド、堪能しました。

しかし、春樹ファンとしてこんなことを言うのはどうかと思うのだが、ひと言・・・・。

あまりにも暗喩が多すぎてすっきりしません。1945年の蒙古における日本軍の展開が、現代の岡田トオルとどんな関係があるのか。井戸の壁を抜けて行ったホテルの208号室にいた女は、ほんとうにクミコなのか。クミコとその兄綿谷ノボルの秘密とはなんなのか。ホテルの案内をしてくれた親切な「顔のない男」は、なんのメタファーなのか。岡田トオルがバットで撲殺した男は、綿谷ノボルなのか・・・・。

それを読み解けないようじゃ、真の春樹ファンとは言えませんよ、という声が聞こえてきそうだが、わからないんですねぇ。「海辺のカフカ」も同様の思いがありました。
初期の頃の小説「羊をめぐる冒険」「ダンス・ダンス・ダンス」は、こういった思いをせず、気持ちよく読めたんですが。
とまれ、これで村上春樹の主な小説は、大体読んだと思います。

今後、どんな小説を書いてくれるのか、ちょっと心配しながら待つことにします。もっとも、最近は翻訳ばっかりですがね。